Siriのやりとりは「ドラクエ」と同レベル

脳科学と人工知能(AI)の研究は、歴史的についたり離れたりを繰り返してきました。ニューラルネットワーク(人工神経回路)は人間の神経回路を模してできているといっても、非常に単純化したモデルで、実際にはさまざまなタイプがある神経細胞(ニューロン)の違いを無視してニューラルネットワークと称しています。

脳科学と人工知能の関係は、鳥と飛行機の関係に例えるとわかりやすい。人間は鳥のように飛びたいと思って飛行機をつくりましたが、実際にできた飛行機は、鳥とはまったく別物です。人工知能も、サーバーの台数を増やして高速化すれば、ある面では人間を圧倒的に上回っていきますが、それは人間の脳とは別物です。

IBMのWatson(ワトソン)やソフトバンクのPepper(ペッパー)、アップルのSiri(シリ)などは一見、言葉を理解しているように見えますが、まだ統計的に言語を処理しているだけで、言葉の意味そのものを理解しているわけではありません。「ドラゴンクエスト」のセリフを見て、コンピュータが話していると思う人はほとんどいないと思いますが、原理的にはあれと同じで(もちろん非常に高度な技術にはなっていますが)、応答は人間が決めています。それに対して感情移入してしまうのは、人間が勝手に行間を埋めているからです。

人工知能はディープラーニング(深層学習)技術によってようやく「目」(画像認識)を手に入れ、「手」(ロボティクス)を動かして学習する態勢が整ったところです。人間の赤ん坊と同じように、まず「目」で見て、「手」を動かし、試行錯誤を重ねて概念やルールを学んでいく。「言葉」を理解し、話せるようになるのは、その後です。猫を見たことがないのに、「猫」という言葉を教えても、それが何を意味するか、わかるはずがありません。