家では僕が主夫をしています。以前は妻(作家の片野ゆか)が家事をしていたのですが、あるとき妻から「家事はもう飽きた」と言われて、結婚10年目に全面的にチェンジしたんです。料理なんてしたことないから、毎回てんやわんや。「台所から『あーっ、しまった!』という声が聞こえてくると、仕事に集中できない」って妻に言われました(笑)。家事は大変だけど、僕がするようになって夫婦の諍いが極端に減りましたね。それまでいかに私が妻に負担をかけていたか、やっとわかりました。

ノンフィクション作家
高野秀行さん

1966年、東京都八王子市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。『ワセダ三畳青春記』で第1回酒飲み書店員大賞。『謎の独立国家ソマリランド』で講談社ノンフィクション賞、梅棹忠夫・山と探検文学賞を受賞。最新刊は『謎のアジア納豆』(新潮社)。
 

昨年、『謎のアジア納豆』という本を書きました。「納豆とはいったい何なのか」という謎を、日本はもとより、ミャンマーやネパールで探ってくるという内容です。納豆は日本の伝統食だと日本人は思っているけど、実は世界各地で食べられています。僕の考えでは、納豆は原始的な食べ物。煮豆を暖かいところに放置しておくと、勝手に納豆になっちゃう。だから各地でかなり昔から作られていると思っているんです。

海外取材は年に3カ月くらい。本場の味が好きなので、日本にいるときも現地の味をそのまま出してくれる店に行きますね。

「ノング インレイ」には、もう20年くらい通っています。初めて会った人は、まずここに連れていくほど。ミャンマー最大の少数民族シャン族の料理なのですが、納豆、高菜漬け、豆腐、餅、おかき、こんにゃくなどがあって、和食に近い。ご主人の山田泰正さんは日本の国籍を取得したシャン族で、ヤンゴン大学というミャンマーの東大を出ているエリート。研究熱心で、食について何を聞いても詳しいです。

もう1軒の「八十八夜」はオシャレな店で、僕なんか場違いな感じですが、犬を店の中まで連れていけるので家族で利用しています。ここは妻と犬が満足する数少ない店のひとつなんです。この店はとにかく野菜がとびきりうまい。毎回食べるのは、野菜をタジン鍋で蒸したものと、大山鶏のから揚げ。土鍋で炊くご飯も、数種類のお米から選べるようになっていておいしいんですよね。

実は、納豆取材は今も続いていて、昨秋はナイジェリアとセネガルへ行ってきました。大豆ではなく現地産の豆で、納豆によく似たものを作っているんです。「アフリカ納豆」とでもいうんでしょうか。納豆を追いかけていくと、どんどん新しい世界が開けてきて興味が尽きないですね。