一昨年に「山本七平賞」を受賞した『新・観光立国論』の著者による最新刊である。
著者は1991年に日本の不良債権の実態を暴いて注目された辣腕の英国人金融アナリスト。2007年に「マネーゲームを達観した」とゴールドマン・サックス証券を辞め、09年に日本の伝統文化財の補修を担う世界に入った。
その狭間が08年のリーマンショックである。直前に予見あっての転身か。
「いえ、自分がやりたいことをやり尽くしたという意味です。マーケットが求めるスキルに自分の得意分野が必要とされなくなるだろうとの予感もありました」
「戦後日本の成長要因は人口激増」「日本型資本主義の妄信で日本は沈む」「日本人の潜在能力発揮で、平均年収2倍、GDP1.5倍=770兆円に」……といった本書の分析には批判もある。
「日本のアナリストやエコノミストは目先の動きを詳しく分析するのは得意ですが、構造的分析はほとんどしません。本質を探究しようとしない。不良債権を暴いたときも、ソロモン・ブラザーズは外資系だから日本をこきおろそうとしているだのCIAの陰謀だのと言われました(笑)。今回も反発はありましたが、《GDP=人口×生産性》ですから、経済成長の主因は人口ボーナス。今、日本の潜在能力に対し、その実績があまりにも低い。それを事実として言っているだけです」
バブル経済が破綻する直前の90年に来日して26年。その経験から、「日本では問題提起が対立を生む。日本人は自分を正当化し、屁理屈をこねて、無関係な話を持ち出す。普遍性も合理性もない。だから、目の前のシンプルな答えに気づかない」と手厳しい。
技師・小松真一の『虜人日記』には、第2次大戦における日本の“敗因”として21項目が綴られている。その中には、日本人の非合理、反省力も普遍性もナシ、といった記述が散見される。これを読み解く形で『日本はなぜ敗れるのか――敗因21ヵ条』を著したのは、ほかならぬ日本人論の大家・山本七平。「敗れた」ではなく「敗れる」である。
「私は日本人が事実だと言い張ることを信用していません」と率直に語る著者に対して、私たちも感情的に反発する前に、まずは傾聴し、目前の対策をじっくりと吟味する必要がありそうだ。