今年1月2日、3日に開催された第93回東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)で、青山学院大学は往路、復路ともに制し、3年連続3度目の総合優勝を果たした。昨年10月の出雲全日本大学選抜駅伝優勝、11月の全日本大学駅伝優勝と合わせて大学駅伝3冠の達成だ。

青山学院大学はほんの7、8年前までは強豪校から程遠い存在だった。2009年、33年ぶりに箱根駅伝に出場したが総合順位で最下位の屈辱を味わった。10年は総合8位、11年も同9位と、何とか総合10位までに入り翌年も箱根駅伝に出場できるシード権を獲得するのがやっとという状態だった。

その青山学院大学がなぜ今や向かうところ敵なしの常勝チームにまで成長できたのか。

本書──『勝ち続ける理由』は、青山学院大学陸上競技部の原晋監督自らが勝ち続ける組織づくりの実践と哲学を明かした、痛快かつ実践的な組織論・人材育成論だ。スポーツの指導者はもちろん、ビジネスパーソンにとっても、部署のマネジメントや部下の指導に生かせる考え方、事例が数多く盛り込まれている。

例えば、選手たちの成長をうながすためのユニークな目標管理シートの活用法は、すぐにでも職場に取り入れられそうだ。

青山学院大学陸上競技部では、選手たちは全員A4用紙1枚にチームの目標と個人の目標を書きこみ、それらの目標を達成できたかどうか自ら採点して廊下に貼り出しているという。選手一人ひとりの意識と取り組みが「見える化」されていると言ってもいい。

原監督はそれらを読み選手との個別面談を行う。目標を達成できなかった選手には助言を与え、目標が高すぎたり自己採点が甘すぎたりする選手には意識改革を促すのだ。

ソーシャルメディアとの付き合い方も示唆に富んでいる。選手がツイッターでつぶやくことさえ禁止する指導者がいる一方で、原監督はソーシャルメディアの積極的な活用を方針として掲げ、情報発信するかどうかはその時々での選手やマネジャーの自主的な判断に任せているという。

その根底にあるのは「そもそも、人間というのは注目を浴びるとテンションが上がり、底知れぬ力を発揮するだけでなく、責任感も生まれてくる」という考えだ。

選手たちの自己承認欲求を上手に満たしてやり、かつ責任感を育ませる原監督のやり方は、ソーシャルメディアも使い方によっては部下のやる気向上に活用できるのだと気づかせてくれる。

長距離ランナーだった原監督は現役を引退した後、中国電力で営業担当者として実績を残した経歴を持つ。スポーツとビジネス、双方の分野で活躍した著者ならではの洞察だろう。