4月27日、刑事訴訟法改正案が国会で可決され、最高刑が死刑となる刑法罪の「時効」が廃止された。この10年、急速に進む厳罰化。そこには知られざる死角がある――。

[反対派] 弁護士 岩村智文

1943年生まれ。72年東北大学法学部卒業。76年司法試験2次試験合格。79年横浜弁護士会に入会。日本弁護士連合会では刑事法制委員会委員長、国の法制審議会では刑事法部会幹事などを歴任。川崎合同法律事務所所属。

[賛成派] 中央大学教授 椎橋隆幸

1946年生まれ。72年一橋大学大学院法学研究科博士課程中退。82年より現職。2008年より中大副学長。専門は刑事訴訟法。警察政策学会会長、法制審議会・刑事法部会長代行も務める。

初動に失敗すれば「困難」という現実

今回の時効廃止をめぐっては、ほかにも数々の懸念が示されてきた。過去の時効未成立事件にも適用するのは遡及処罰を禁じた憲法39条に抵触するとの指摘は根強く、捜査現場の物理的・技術的な側面からの懐疑の声もある。時効が廃止されれば、理論上は捜査を区切りなく延々と続けねばならず、資料や証拠品なども永久に保存される必要が生じるからだ。

こうした点について、椎橋教授と岩村弁護士はそれぞれこう語る。

「時効を廃止して現実的に一番問題となるのは、警察の捜査態勢や膨大な証拠保管でしょう。ただ、もし将来に犯人が出てきても処罰できないという不利益、不正義と、以前よりも資料などを長期保存しておく負担などとのバランスを考えると、やはり前者のほうが勝るということです」(椎橋教授)

「捜査態勢や記録保管の問題に加え、過去に遡った適用は憲法39条に反します。そもそも法制審自体が法務省の意向を強く反映する仕組みになっていて、最初から時効廃止ありきの流れがつくられていた。法務・検察が被害者の訴えや世論に迎合し、これを治安強化にも利用した危うい判断だと思います」(岩村弁護士)