身につけて満足感を味わったり、自宅で眺めてうっとりしたり……。日本の富裕層が高級な宝飾品を買い求める動機は、それだけではなかった! フランスの老舗高級ブランド社長が知っている、彼らの「楽しみ方」とは。

お金がお金を呼ぶ「世界に一つだけ」の価値

緑青色のドーム屋根が印象的な宮殿風の洋館の前に立つと、外国人ドアマンが恭しく扉を開ける。ソファ席が並ぶ歓談スペースを通って奥へ。さらに現れた扉を開けると、突如暗闇へとほうりこまれる。目が慣れてきたら、光でできたアーチが層になって広がる幻想的な風景が。中を進んでいくと、キラキラと光を放つ宝飾品がガラス越しに展示されているのがわかる。

ここは、東京・上野の東京国立博物館の敷地内にある表慶館。フランスの高級ブランド・カルティエが開いている展示販売会の会場だ。

東京国立博物館で開かれた「受注会」の会場。

多彩なカットを組み合わせたダイヤモンドのブレスレット、幾何学的なデザインを複数の貴石が彩るネックレス、蘭の花や豹などを宝石の色彩で本物さながらに表現したブローチ……。展示された550点の宝飾品はすべてが職人の手による一点物だ。最低価格は約3000万円で、平均価格は約8000万円。数億円の商品も珍しくない。

この展示販売会はVIP顧客向けの「受注会」と呼ばれ、日本国内はもちろん、アジアだけでなく欧米や中東などの富裕層やコレクターも含め、数百組が招待された。招待客の旅費や宿泊費は、すべてカルティエ持ちだという。

スタッフに話しかけながらじっくり一点を見つめている人、ゆっくりと展示品を見回っている人。館内は静かながらも、熱気と高揚感に包まれている。日本の婦人や母娘連れの姿も目についた。

よく見ると、ジュエリーを載せた台座の多くに金色の小さなシールが貼られていることに気づいた。これは売約済みの印。招待客たちは気に入ったものが見つかると、2階の個室で手にとって検討。購入が決まれば、受注会終了後に引き渡される。

2017年に創業170周年を迎えるカルティエ。こうした受注会を世界各地で催してきたが、日本での開催は15年に引き続き2回目。15年は京都国立博物館の明治古都館で行われた。今回の受注会では、新作シリーズの「カルティエ・マジシャン」を世界に先駆けて発表。カルティエの歴史上、日本で最初に新作がお披露目されるのは初めてのことだ。

日本の宝飾品市場は、バブル期の約3兆円をピークに、バブル崩壊後は縮小し続けてきた。近年ようやく底打ちして1兆円弱の規模で推移している。宝飾品の売り上げは、基本的に株価が上がるとそれにつられて伸びる。例えばアベノミクス初期には、短期的に上昇した。しかし、マクロ的に見れば近年は横ばいというのが現状だ。

そんな中カルティエは、大規模な富裕層向け受注会を2年連続で開催したのみならず、16年9月には東京・銀座にアジア最大規模の店舗をオープン。

フランスの老舗ブランドが、ここにきて日本市場に注力する理由は何か。日本の富裕層たちに何を期待しているのか。カルティエ・ジャパン社長のカルロ・ガリリオ氏に、その真意を聞いた。