家計簿、110年の効用と限界

家計管理ツールといえば長年「家計簿」が定番でした。最近ではたくさんの家計簿アプリが開発されており、節約志向の高い20代の利用者がとくに増えていると聞きます。

日本で家計簿が創刊されたのは明治37(1904)年。創案者は婦人之友社創立者の羽仁もと子さんです。110年を超える長い歴史をもつ家計簿は、その目的や効用が創案者の言葉によく表れているので引用してみます。

「家庭経済の第一歩は、清らかな収入の道をはかり、よい費目分けの予算をつくり、各費目の予算を照らし合わせて、日々の支出を記帳してゆくことです。一家の経済は決して私事ではありません。健全にして発展性に富む一つの家の経済状態は、そのまま直接に有力な社会を造る力強い材料になるばかりではありません。たとえばどんなに少額でも、そのようにして作り出した余裕を以て、親族朋友の貧しさを補い、そして社会のために必要なさまざまな事業を助け、或いはつくり出す力ともすることが出来ましょう」

格調高い文章の中に、健全な家庭を経済面からもつくっていきましょうという意気込みが読み取れます。ともあれ、家計簿の要諦は予算を立ててそれを守り、家計に余裕を生むことにあります。

家計簿は、長い間、日本人の家計管理に対する考え方に多大なる影響を与えてきました。創案から110年以上経った今日も、創案者が掲げた理念はまったく色褪せるものではありません。しかし、日本の社会や経済、会社や家族のあり方が大きく様変わりした今日、家計簿で提供される家計データだけで家庭経営の舵取りが本当にできるのでしょうか。

「子育て」にはお金がかかる

バブル崩壊以降の四半世紀で、日本のビジネスマンを取り巻く外部環境は大きく変化しました。最大の変化は経済成長の鈍化・停滞です。このため、給与は年功的な安定性をもって上昇することはなくなり、マイホームなどの資産価格も一般的には上昇せず、預貯金金利は0%に近しい状況が続いています。

デフレの時期が長く物価も上がらなかったから、給与が上がらなくてもさほど生活に痛みが出ないはずだ、と考えるのは誤りです。一例を挙げれば、子育てを経験した方は実感されているように、子供の成長とともに食費や被服費などの日常生活費は膨らんでいきます。また塾やお稽古ごと、部活にかかる費用などの教育費も増加していきます。さらに大学進学ともなると、金融広報中央委員会のHPによれば、子供を自宅から大学に通わせ場合でも4年間で一人当たり500万円を超える教育費がかかり、一人暮らしをさせて私立大学に通わせた場合の教育費は一人当たり1000万円を超えるとされています。

つまり、景気動向に関係なく、家族のライフステージが変化することで否応なく増加する支出があるのです。そして、一般的に40、50代は人生でもっとも支出が膨らむ時期といえるでしょう。