部下のやる気が感じられない――そんな悩みを抱える読者は多いでしょう。経営学ではこれまで、従業員のやる気やモチベーションを引き出すためのさまざまな理論が提唱されてきました。

なかでも、1970年代に確立され、現在も多くの場面で活用されているのが「期待理論」です。「ある業績を達成しようとするモチベーション」は「ある努力をすれば、その業績を達成できるという期待」と「その業績を上げることで得られる報酬とその魅力度」の掛け算によって決まるというものです。つまり、モチベーションを上げるためには、仕事への期待度合いに応じて報酬を変えればいいということです。

やる気のない部下に悩む人は、仕事の与え方・任せ方を再考しよう。(写真=getty images)

例えば、ある製薬会社では、新薬の開発に成功した場合、特別報酬として数千万円を支払うそうです。このような制度設計の基になっているのが期待理論です。新薬の開発は、努力が成果に結びつく期待が極めて低いため、頑張ろうという意識も低下してしまいがちです。期待理論に当てはめると、このような場合には、成功したときの報酬を思い切り大きくすればいいということになります。成功する確率は極めて低いものの、もし成功すれば大きな報酬が得られるようにすることで、仕事への意欲を高めるというわけです。

しかし、このような考え方は、一人ひとりの成果が明確に測れるような業務であれば機能しますが、新薬開発のように組織で行われる知的生産活動の場合、貢献度を個別に正確に評価することが困難なため、従業員の不公平感を高めることになります。今日のように組織的な知的生産活動が主流となっている時代には、期待理論は制度疲労を起こしているといえます。