アメリカ発祥の哲学「プラグマティズム」。世界一の大国を牽引する政治家や起業家の多くに影響を与えているといわれる。アメリカ人の根底に流れる思想とは一体何なのか。気鋭の哲学者に解説をお願いした。

米大統領選にも影響を与えた思想

終盤はスキャンダル戦と化したアメリカ大統領選にも、ようやく決着がついた。民主党陣営では、最後はバラク・オバマも積極的に応援演説に立ち、「アメリカを前進させる候補はヒラリー・クリントンしかいない」と支持を呼びかけていた。

『希望の思想 プラグマティズム入門』の著者で、現在は聖学院大学で哲学を教える大賀祐樹氏はそれを、「オバマにとっては、自らの行動原理の背景にある思想の継承者を決める戦いでもあったのだろう」とみていたという。その思想こそがプラグマティズム。アメリカ発祥の哲学だ。

プラグマティズムは、日々世界の紛争と向き合うアメリカの政治家にも、次々とイノベーションを起こすシリコンバレーの起業家にも大きな影響を与えているといわれる。果たしてどのような哲学なのか。

第一の特徴は、「唯一の真理」の探究を放棄するという点にある。

ギリシャ哲学のプラトンに始まり、デカルトやカントなど、古代から近代にかけて哲学は「唯一、絶対的な真理」を求めてきた。しかし、プラグマティズムはヨーロッパ的な古典哲学とは一線を画す。19世紀後半のアメリカでそうした哲学が生まれてきたのは、「時代性がある」と大賀氏は解説する。

「19世紀後半から科学が発達し、資本主義も広がっていきます。それに応じて社会に多様性が生まれた。加えて宗教でもカトリックだけでなくプロテスタントも出てきて、真理が一つだといい切るのは無理があるのではないかと人々が感じ始めてきたのです」