「笑って」と言われてもうまく笑えない──そんな悩みを抱えている人は多いのではないか。世界初の笑顔コンサルタントとして約800社、10万人以上の人々に研修を行ってきた門川義彦さんに、「自然な笑顔」のつくり方を聞いた。

歯を出して笑えない日本人

私が笑顔の力に気が付いたのは、大手アパレル販売チェーン鈴屋の店長を務めていたときでした。売り上げが抜群によい女性の学生アルバイトがいたのですが、販売経験も商品知識も特に豊富というわけではありません。なぜだろうと思って見ていたら、とびっきりの笑顔でお客様に接していたんです。ほかの店舗でも、売り上げのよい店には必ず、笑顔が素敵な販売員がそろっていました。

笑顔アメニティ研究所 門川義彦●明治学院大学経済学部卒業後、アパレルチェーン鈴屋入社。店長、販売ディレクターなどを経て独立。“笑顔コンサルタント”として、小売業、運輸業などの従事者に研修を行う。

人間にはミラーニューロンという、目にしたものを自分の脳内で鏡のように再現する神経細胞があります。別名、モノマネ細胞とも言われ、笑顔の人を見ると、自然と笑顔になってしまう。つまり、笑顔には人を笑顔にさせてしまう力があるということ。それによって人は、相手のことを「感じがいい」と思うのです。

人間は笑顔になると、呼吸がスムーズになって空気が体中に行き渡り、血流もよくなって副交感神経が活発になります。そうすると心も体もコンディションがよくなるのです。ほかにも、病原菌と戦うNK(ナチュラルキラー)細胞が活発になって免疫力が上がるなど、最近はさまざまな分野で笑顔の効用がうたわれるようになりました。

しかし、日本では大口を開けて笑うことをあまりよしとしない風潮があります。笑顔になってくださいとお願いすると、ほとんどの人が歯を見せずに笑うか、控えめな笑顔しか見せてくれません。

笑顔はコミュニケーションの技術です。アメリカの経営者などは、ビジネスで最も必要なことはコミュニケーション力であり、そのための最大の技術は笑顔だと言っています。逆に言えば、気持ちのよい笑顔ができる人は、それだけで差をつけることができる。そして、笑顔はトレーニングで身につけることのできる技術なのです。