2012年7月7日、ソフトバンク本社の社員食堂は異様な熱気に包まれていた。孫正義社長はじめ、グループ会社の経営幹部約120人が集まり、食事も休憩もそこそこに興じていたのは「マネジメントゲームMG」というビジネスゲーム。
ソニーとCDIが開発、現在はマネジメント・カレッジが扱っている
(1)プレーヤーは1卓に4~6人。一人ひとりが企業の社長となる。製造業版の場合、何を作る会社にするかは自分でイメージし、仕入れから生産、販売までマネジメントする。
(2)自分以外のプレーヤーは、ライバル会社の社長と想定する。
(3)1期(1年)分として任意の時間(30分や1時間など)を設定し、何期分までを競うか事前に設定しておく。
(4)1期ごとに決算を行い、貸借対照表や損益計算書などの財務諸表を作成する。
(5)各プレーヤーは売り上げや収益の拡大を図りながら、独自の経営戦略のもとにナンバーワンの利益を上げることを目指す。
「孫社長の強さは半端じゃない。勝負勘が違いすぎるのか、まわりが嫌になるぐらいの強さでした」――。そう振り返るのは、ソフトバンク執行役員の青野史寛氏だ。そんな状況だったから、最終的に勝ち残った青野氏ら数人の経営幹部は、孫社長を狙い撃ちにする作戦に出た。
「おまえら、なんでだ。なんで俺ばかり狙うんだ」
悲鳴とも、怒りともつかぬ孫社長の訴えに、青野氏らは、してやったりの表情で答えた。
「いつも教えていただいています。市場では強いヤツから倒せと」
午前9時から始まったゲーム大会は、午後6時になってようやく終わりを迎えた。頭も体力も使い果たし、どの幹部の顔にも疲労の色が見えた。それだけ全員が本気だったのだ。なかには惨敗し続け「俺が社長になるのは早かったか……」と気を落とす者までいた。
たかがゲームで終わらないすごさがここにある。孫社長もかつて社員を前に「実際の事業の重要なキーファクターについて、これほど要素が取り入れられているゲームを僕は見たことがない」と語っている。しかも、マネジメントゲームMGで戦った経験をもとに、現実のソフトバンク商品の料金プラン、さらには人・物・金の配分を導いたことさえあるというのだ。
ゲームの概要については右のコラムや左上のポイント図を参照していただきたいが、参加者一人ひとりが経営者としてプレーするところに最大の特徴がある。しかも、財務会計の知識を自然と身につけられるところが、なんといっても肝なのだ。