日本だけが世界のロビー情勢から大きな後れをとる

今、日本の政策決定のあり方が大きく変わってきている。

実務を担う省庁と強力なパイプを持ち、豊富な専門知識と幅広い人脈をもとに、政策立案に関与する。これは洋の東西を問わず政治やロビイストが果たす役割のひとつである。とりわけ多様なコミュニケーションのチャンネル、問題に関する専門的知識を有能な政治家やロビイストは必ず有している。企業も当然、そのような有能な政治家ないしロビイストに頼ろうとする。このことは決して日本だけの特殊な現象ではない。米国も欧州もそうである。

『ロビイングのバイブル』(藤井 敏彦、岩本 隆、株式会社ベクトル パブリック・アフェアーズ事業部著・プレジデント社刊)

ただ、ひとつ日本と欧米が大きく違うのは、日本では主に「水面下」で物事が運ばれてきたこと(もちろん欧米といえども政治に完全な透明性などというものは存在しないが)、比較的狭い範囲のステークホルダーだけが参加して物事が決められてきたということである。かつては、欧米でも同様であった(そしてその限りで欧米でも「ロビイング」という言葉には長く影がつきまとった)が、欧米のロビイング事情はその後大きく変化した。しかし、日本は変化が顕著に見えるまでに至っていない。このことが日本で「ロビイング」に何か胡散臭いものというイメージを与えてしまった一因である。

しかし、小泉純一郎政権が誕生し、日本の意思決定のメカニズムが大きく変わりはじめた。さらには二度の政権交代(民主党“現・民進党”、そして再び自民党へ)を経て、密室で物事を決めていける可能性が相対的に小さなものとなった。国民の見えないところで政策が骨抜きにされていくことに大きな批判が巻き起こり、決定プロセスの透明化が求められたのだ。国民全体、社会全体の利益を無視して、密室で物事を決めたり、特定の議員が水面下で力を振るったりすることは、説明責任上の問題を発生させるし、何よりももはや国民がよしとしない。

政策決定のあり方が変わると、企業も変わらねばならない。これまでのように、自社の利益を守るために、業界団体のみを通じて規制省庁に働きかけたり、有力な政治家に働きかけたりするだけでは、物事が思うように動かないことが多くなってきた。

過渡期にある今日の問題は、政治家や霞が関と、民間企業の接触が著しく制限されている現状だ。企業は今、悩んだまま、身動きが取れずにいる。新たな政策決定プロセスにおいて、企業が自分たちを守り、成長させていくために、政治や行政とどのような関係を築くべきなのか。その答えが見えていない企業がほとんどなのではないだろうか。