文書でいえば、合理的とは、簡潔かつ要点を明確に、ということ。私がそのコツを学んだのは、伊藤忠商事で働いていた20代の頃です。

たとえばビジネス文書は、新聞の一面記事にならえと上司から教わった。この構成なら、丹念に読む時間がない相手でも即座に内容が理解できるということです。そのコツを残したのは、大本営作戦参謀だった瀬島龍三さんだそうです。瀬島さんは戦後、伊藤忠商事にきて会長まで務めましたが、そういう教えをいくつも残したのでしょう。

大企業には悪い文化がたくさんありますが、そのような大切なノウハウが受け継がれていくところは、よい文化です。

「鉄は熱いうちに打て」で、ビジネスの基本ノウハウは若いうちに身につけるのが一番です。私は自分の経験もあって、常にそのことを意識してきました。以前の会社でも、新入社員が入社時研修を終えると、彼らのレポートを私が添削していました。職場の上司宛てに提出したレポートですが、社長の私がすべてに目を通し、文章に赤字を入れて戻す。これからたくさんビジネス文書を書くことになるけれど、それぐらい大切に書いてほしいというメッセージです。何年か経って、社員から感謝されて嬉しかったことがあります。

私は資料やデータを否定するわけではありません。以前のカルビーがそうであったように、各種指標を駆使してビジネスの方向性を決めるのも一つの経営スタイルです。

ただ、数値データに頼りすぎるのは考えものです。それは競馬新聞を見ればわかります。過去のレースで何着だったか、体重がどう変化したかと数値データばかり追っても、そう簡単に馬券は当たりません。

ビジネス文書も、数値データが豊富だと説得力があるように見えますが、そこには落とし穴があります。

私も毎日の売り上げなど重要な指標のデイリーデータは、必ず目を通します。参照するデータを絞り込んで活用しているわけです。以前のカルビーは、膨大なデータをもとに経営の舵を切る「コックピット経営」と呼ばれていました。たくさんの計器に囲まれた飛行機の操縦室です。現在はかなりデータを絞り込んだので、自動車ほどの計器がある「ダッシュボード経営」です。