ジョブズのようなヒーローを目指せ

第5のポイントは接続詞。これも修正点だ。西任が指摘する。

「接続詞に『so』や『but』がとても多いのが気になります。ほかの接続詞を用いて、バリエーションをつけたほうがいいでしょう」

たとえばテキサス州サンアントニオでの16分のスピーチでは「so」を実に19回も使用している。「これだと話の方向性が見えないので、聞き手は不安を感じます。『so』の代わりに『to start』『first of all』『after that』『in addition』『additionally』『at the same time』『moreover』『likewise(同様に)』といった接続詞や表現を用い、話の方向性を明確にするといいでしょう。順接か逆接かの区別をするだけでもずいぶん違います」。

スピーチの場にはそぐわない慣用句が使われているところもある。

「それは『blah,blah,blah』というフレーズです。女子高生や主婦が使う言葉で、アメリカ人はビジネスの場ではまず使わない。孫さんに限らず日本人のCEOはオフィシャルな場でも使っているようですが、『えっとねー、あのねー』と言っているような幼稚な印象を与えてしまうので、今後はぜひ避けてほしい」(ドーブ)

ファッションについても触れておこう。今回参照した2つのスピーチでは、孫はブラックスーツにネクタイというフォーマルなスタイルだった。

しかし「スピーチの内容からすると、孫さんは聞き手の人たちと『つながりたい』と思っている。だったら、スティーブ・ジョブズがそうしたように、タートルネックを着るとかドレス・ダウンするといい」(同)。

なぜなら「アメリカではCEOというと高い報酬をもらっているのに責任逃れをする悪い人、というイメージがあるけれど、ジョブズみたいな人は例外で、ヒーローだと思われている。孫さんもジョブズを目指していると僕は感じる。だったら、カッコよくドレス・ダウンするべきだ」(同)。

もっとも、西任とドーブが声をそろえるのは「CEOという立場の人が人前に出てきて、母国語ではない英語で自信を持って語りかけることは途方もなくいいこと」。トーンや接続詞や慣用句の使い方に気を付け、ファッションにも目配りをすればジョブズのようなヒーローになることは間違いない。私もそれを期待したい。(文中敬称略)

※今回参照したのは、孫氏が2014年3月に首都ワシントンとテキサス州サンアントニオで行った2つのスピーチ。ソフトバンクは13年に大手キャリアのスプリントを買収し、アメリカの携帯業界に参入した。スピーチではその背景と意義を語るとともに、孫氏自身の日本での経験などを吐露した。ワシントンでのスピーチは1時間ほど、サンアントニオでのスピーチは16分ほど。スピーチの映像はソフトバンクがネット上で公開している。http://www.softbank.jp/corp/irinfo/presentations/2013#18980

(ミヤジシンゴ=撮影 ソフトバンク=写真 指南役:西任暁子=スピーチコンサルタント/ジョン・ドーブ=英語ナレーター)
【関連記事】
孫正義流“冒頭から聴衆を引きつける”プレゼンの始め方
孫正義「まず登る山を決めろ」
なぜ孫正義のメールは“3行以内”なのか
スティーブ・ジョブズも使った「実現できると思わせる」現実歪曲フィールド
ソフトバンクがライバルauを粉砕した魔法の言葉