もう一度、前回の連載で説明した損益計算書を見てみましょう。この表を見て、回収しなければならない売掛金の金額が明確に分かるでしょうか?

損益計算書とは、企業の1年間の経営成績=利益を明らかにするために作られる。なじみが薄い人は、まず本業のもうけを表す「営業利益」と、税金などすべてのコストを差し引いた最終的なもうけを表す「当期純利益」の2つの意味を押さえてみよう。詳しくは前回の連載『数字が苦手でも、最低限知っておくべき「2つの利益」とは?』(http://woman.president.jp/articles/-/759)をご参照ください。

答えはNoです。損益計算書では売上からコストを引いて利益を算出します。売上は「入ってきた現金そのもの」の額ではなく、またコストは「使った現金そのもの」の額ではありません。

例えば、掛取引(「掛け」とも言います)で商品を売り上げたとします。ほとんどの取引では、売上の金額を計上するのは売り上げたタイミングであって、後で回収する約束をしていた売掛金(「掛け金」とも言います)が実際に口座に入ってきたタイミングではありません。つまり、売上が計上され、またそれに見合うコストが計算されて利益が計算できていたとしても、売上金額が「現金として」企業に入ってくるタイミングは別ということになります。つまり利益が先に計上されて、実際に現金が回収されるのは後ということになるのです。

このタイムラグにより、「利益が上がっているけれど、社内に現金がない」というずれが発生します。この間に、新たな仕入れや給与の支払い、借入金の返済など、実際の「現金そのもの」を支払わなくてはいけないとなると、企業としては「支払いが滞る」ことになってしまうのです。

こんな例を考えてみましょう。A社はある商品を仕入れて販売している小売業です。2015年12月末現在、手元に現金が100万円あり、売掛金は300万円計上されています。売掛金が入ってくるのは、2016年2月15日です。

しかし、このたび、B社より2016年1月末にA社の商品を300万円分買いたい、という引き合いがありました。急いで仕入れれば納期は間に合います。しかし300万円相当の商品を仕入れるためには、180万が必要です。仕入先のC社とは取引歴が浅く、一括現金で支払う契約です。

仕入れのための現金を用意できないA社は、販売機会をみすみす逃すことになります。こうしたことが続けば、A社は在庫切れを起こしがちな企業という見方をされて、取引先であるB社からの信頼を失ってしまう恐れもあります。

ただ、このケースに限って言えば販売のチャンスを逃すだけなので、すぐに倒産につながるということはありません。しかし、これがもし借入金の返済や、後で支払いを約束していた仕入れの返済(買掛金)だったとしたら……。A社は支払いが滞る会社ということになってしまいます。

特に起業して売上が伸び始めたときこそ、現金の管理がとても重要になります。また、取引が例に挙げたような状態になることを防ぐためには、前払金で売上金額の一部を入れてもらうなどの方法があります。こうした交渉により、資金繰りをうまくコントロールできるようにもなります。