仕事のできる人はメモ上手だ。どんな仕事でも話を聞いてメモを取るのは基本中の基本。新聞記者はあらゆるシーンで取材メモを書くプロ。すぐに使えるベテラン記者のマル秘メモテクニックを紹介しよう。

工夫して自分流に略語を開発する

作家の開高健は、「文章力はメモ次第。メモがうまく取れていれば、作品はできたようなものだ」と力説していたという。作家に限らず人の話を聞いてメモを取ることは、どんな仕事をするうえでも基本中の基本だ。特に新聞記者は毎日の取材の中でメモを取り、文章という形に仕上げていくプロ。新聞記者はテープレコーダーに頼らず、メモだけで1時間程度の談話であれば文章にすることができるように訓練をするという。

政治部のデスクとして現場を仕切った経験もある50代の全国紙編集委員の唐澤武樹氏(仮名)は、「若い部下にはICレコーダーを使っている人が多いが、自分は断然メモ派です。テープ起こしは結構な時間がかかるので、ちょっとしたインタビューならメモだけで十分。テープ起こしに慣れた人でも実時間の3倍、素人であれば4、5倍かかると覚悟しておいたほうがいい」と話す。

録音に頼らないでメモするときの注意点は、すべての言葉をメモしようとしないこと。人は無意識に同じことを話しているものなので、重複する言葉は思い切って捨ててしまうといい。大切なことを言っている場面では、なるべく一語一句もらさずメモする必要があるが、大切なのはそれをどう見極めるかだという。

それでも取材で話すスピードの速い人、政治や官庁の政策がらみで専門用語が多出するときにはどうしているのだろうか。

「メモの取り方は個人のノウハウ、技量にかかっている。記者が最も工夫をこらし、自分流に開発するのが略語です。簡略化して手間を省かなければ、とても話のスピードについていけません。政策などの専門用語には特に必要です。消費税なら『S』と書きますが、政治改革が話題になったときには、取材対象が1人でも政治資金、選挙制度など、テーマが多岐にわたっていました。用語も長く、漢字の画数は多いし、すべてメモするのはとても無理です。私は選挙制度はSS、政治資金はSC、小選挙区比例代表並立制は『まるへい』、小選挙区比例代表連用制は、ただの『まる』にするなど、関連用語を分けて、略語化していきました」(唐澤氏)

書くスピードを上げるには略語化や記号化が欠かせないわけだが、その場の思いつきで使っていると、後で何が何だかわからなくなる。自分でしっかりとルールを決めておき、継続して使っているうちに、自然と体得してしまう。ビジネスマンでも、漢字は画数が多く書くのに時間がかかるので、業務でよく使う漢字は略し方を決めておくといい。また、漢字よりは、平仮名、片仮名のほうが確実に速く書ける。アルファベットも速く書けるので、ローマ字にした単語の頭文字を略字に使用するのも一つの方法だ。