脳には生理的な周期があり、7年経つと感性の位相が変わる。そう唱えるのは、脳科学を基調とした感性研究の専門家である著者だ。

黒川伊保子(くろかわ・いほこ)
長野県生まれ。奈良女子大学理学部物理学科を卒業。富士通ソーシアルサイエンスラボラトリで人工知能の研究に従事したのち、感性リサーチを設立。世界初の語感分析法を開発し、多くの商品名やマーケティング戦略を手がけ大ヒットに導く。

「1999年からはナンバーワンよりオンリーワンを求める『癒やし』の時代、2006年からは人に優しくしたい『気品』の時代でした。そして13年以降が『英雄』の時代。人々は使命感を持って孤高に耐える『英雄』に憧れを抱くようになったんです」

しかし『英雄の書』は、トレンド分析の本ではない。かつて人工知能の開発に従事した著者は、男性と女性の脳を比較する恋愛関係の著作を数多く発表してきたが、一番書きたかったテーマが「人生を切り開くため、人は何をすればいいか」だった。その結論「英雄であれ」を力強い筆致で綴っている。

「英雄になるためには、失敗と孤独を恐れないこと。特に前者は脳科学的にも重要です。間違えないことをよしとする教育を受けてきた昨今の若者は、いち早く予定調和の答えを出すことに長けています。でもそういう聞き分けのいい脳は、人工知能でも作れるんですよ。それよりもしっかり失敗体験をしておけば、脳は無駄な回路を捨て、その人だけの直感の地図が完成する。結果、脳が成長し、しなやかな大人になれるんです」

本書の中で印象的な一文が、「脳ほど、とりかえしのつく臓器はない」だ。交通事故で左脳の3分の2を失った少年が一から言葉を学んで、10年後に留学した症例が学会で発表されている。「脳はとってもタフ。いくらでも巻き返せるし、100歳でも変われるんです」と著者は語った。挫折を乗り越え、諦めない――。脳と英雄の不思議な近似性が浮かび上がる一冊である。