書店・文具店で拡大される「大人のぬりえ」コーナー。「ストレス解消」「癒やし効果抜群」といった言葉が躍る。なぜいま人気が高まっているのか。専門家に話を聞いた。
10年ぶりに人気再燃の理由
10年前にブームが起こり、近年、人気が再燃している「大人のぬりえ」。特設コーナーを設置している書店や文具店も多い。その理由はどこにあるのか。
「ぬりえのいいところを一言で言うと『脳全体をバランスよく活性化』するところです」。そう話すのは、『脳をリフレッシュする大人のぬりえ』(きこ書房)の著者で、杏林大学医学部精神神経科学教室の古賀良彦教授。「ぬりえをする思考、動作のひとつひとつが脳を効率的に刺激していきます。原画をよく見て、記憶する。どの色でどこの箇所を塗るか、構成を考える。実際に色鉛筆を持ち、塗っていく。完成した作品を友達に見せたり、SNSに公開することでコミュニケーションをとる。この一連の行動は、目で見る(後頭葉)、記憶する(側頭葉)、配置を考える(頭頂葉)、情報を統合して動作の指令を出す(前頭連合野)、手を動かす(運動野)、会話する(聴覚野・言語野)と脳全体を使っていることになり、結果的に脳を活性化することになるのです」
ぬりえが脳全体を使う行動で、脳を活性化することはわかったが、実際にはどんな作用をもたらしてくれるのだろうか。
「10年ほど前に流行した大人のぬりえは、老化防止のための“脳トレ”が目的のものが大半で、その対象はお年寄りでした。最近注目されているのは、幅広い年代向けの“ストレス解消”が目的です。ストレスを取り除くには『レスト、レクリエーション、リラックス』の“3つのR”が必要といわれていますが、ぬりえはそのすべてを満たしてくれます」
古賀教授はこう続ける。
「ストレスはためちゃダメなんです。1日分のストレスは小さいですが、ためると体にも心にも悪影響を及ぼします。だからこそ、小さいうちに解消していくのが大切。先ほど挙げた3つのRのうち、レクリエーションが一番難しいんです。現代のビジネスパーソンは時間に追われているので、休むので精一杯。でも、ただ休むだけではストレスはなくならないんですよね。そこで、少しの時間でリラックスしながらできるレクリエーションとして、ぬりえは最適なんです」
確かに、ストレスを感じているときには、休むだけでは不安や悩みが思い起こされてしまうことも多い。さらに「大人のぬりえ」をすすめる理由として古賀教授は「費用が少なくてすむ」「準備・片付けが簡単」「失敗してもよい」という3つを挙げてくれた。
「ぬりえの本は1000円前後、高くても2000円ほどで手に入り、画材も安い。しかも、本と画材を取り出せばすぐに取りかかれる。色鉛筆を使えば手も汚れません。広いスペースを必要とせず簡単にできるところもいいですね。たとえ失敗しても、誰も嫌な思いをしないことも利点です」