人生哲学

▼悩まず、迷わず決断する秘訣

──お2人に一番共通するのは、判断の基準が明確だということです。対談の締めくくりとして、悩まず、迷わず、決断する秘訣をお聞かせください。
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稲盛和夫氏と鈴木敏文氏の経歴

【鈴木】私は、1つのことをこう決めたら、次はまたこうしようと、連続的に考えていくので、そんなに悩むことはありません。ダメなら修正すればいい。特にほかの方の意見を聞くとか、ノウハウ的なことを書いてあるものを読むことも、あまりありません。稲盛さんは、どうですか。

【稲盛】私も同じで、さほど悩みません。損得ではなく、「人間として何が正しいのか」、その一点で考える。自社にとって不利でも、正しいと思うことを選択するのであまり迷いません。

JALの再建で提携先のアライアンス(航空連合)を決めるときもそうでした。JALは従来、アメリカン航空を盟主とするワンワールドに加盟していました。倒産後、行政を中心に政治家たちも含め、デルタ航空が盟主のスカイチームへ鞍替えする動きが出ました。スカイチーム側からも多額の支援の申し入れがあり、社内でも「移るべき」という意見が大勢を占めました。

条件的には鞍替えのほうが有利です。でも、私は着任後、両陣営のトップ級と会い、話を聞いたうえで残留を決めました。もし鞍替えすれば、日米間の太平洋路線の勢力図のバランスが崩れてしまうこと、何より、今までずっと一緒に組んできたアメリカン航空には何の落ち度もないのに簡単に鞍替えするのは、人間として正しいことなのかという判断によるものでした。幹部社員たちも賛成してくれました。