うっかり触れると人間関係を損なう“タブー”のありかは、男と女とで異なるものなのか。言葉選びに命を懸ける「諜報のプロ」佐藤優氏に聞く、世間話の究極の奥義。

女子会、SNSと「雑談する力」

人脈を構築するうえで一番重要なのが、実は「雑談する力」だ。日本のビジネスパーソンや外交官は、仕事をこなすのは上手だが、社交が下手で、なかなか要人との人脈を構築することができない。その理由は、まさに雑談に弱いからだ。

雑談ができるようになるためには、共通の話題と、相手の文化に対する理解が必要だ。マナーの本を読むと「社交の席で政治や宗教の話はしないほうがいい」と書かれているが、これはおかしな話だ。政治や宗教の話をタブーにしてしまうと、実質的な内容のある話がほとんどできなくなる。

作家・元外務省主任分析官 佐藤優氏

こういうアドバイスは、相手の文化や常識を読み誤り、大失敗をしたひと昔前の日本人が、「それならば、面倒な話には加わらないほうがいい」と考え、思いついた、間違った教訓だ。

仮に政治や宗教を除外したとしても、盛り上がれる話題はたくさんある。文学、芸術、そして歴史や文化についての雑談だ。もっとも、外国人が日本人に尋ねるのは、もっぱら日本の文化や歴史についての話だ。

「禅と茶の湯はどういう関係があるのか」「忍者とサムライはどこが違うのか」というような質問に端的に答えられないといけない。そうでないと、「レクサスは日本でいくらするか」「日本製の液晶テレビは、韓国製よりも買い得か」というような「ハウマッチ」系の雑談に終始することになってしまう。

国内でも「雑談が苦手だ」という人が増えている。外交や国際ビジネスの世界と同様に、仕事以外の共通の話題に関する教養が浅いからだ。

虎ノ門、新橋、新宿、池袋などの居酒屋でサラリーマンたちの話を聞いていると、だいたいが上司の悪口か「自分は能力が高いのに正当に評価されていない」という不満について堂々巡りの話をしているだけ。

こんな飲み会に何度参加しても、「雑談する力」はつかない。こういう輩が女性の前で、風俗の話を平気でして、顰蹙を買う。

女子会が盛んになっているのも、男性と共通の話題が見つけにくくなっているという要因を無視できない。女子会で話されている内容は、だいたいが噂話だ。最初のうちは楽しくても、そのうち参加するのが面倒になってくる。

しかし、参加しないと女子会で何を言われるかわからない。だから安全保障のために参加し続けるという、本末の転倒した事態になってくる。

ちなみに、フェイスブックにもこれと似た状況がある。「雑談する力」がない人にとって、SNSを使い続けることは苦痛だ。しかし、これを裏返して言うならば、「雑談する力」がきちんとついている人は、フェイスブックをビジネスツールとして効果的に用いることができる。