検査当日に健診機関が
健康意識を高め、継続健診へ

「現在、私は、自身がサポートしているある健診機関の試みに注目しています。検査当日、健康への関心が高いうちに受診者の懐に入り込みます。具体的には、医師や看護師が健診機関のメルマガ会員に勧誘し、健診後もさまざまな健康・医療情報を届けているのです。継続してコンタクトを持つことで、自然に翌年の健診にもつながります」

その結果、7~8割が継続して健診を受けるようになったという。

健診結果がデータとして蓄積されることもさることながら、健診機関として受診者をフォローできることが、医師や看護師など医療スタッフにとっても喜びのようだ。

手厚く検査を行い、検査後も受診者に寄り添う。運動や食事について看護師や管理栄養士などが現状の生活改善のアドバイスを行えば、良きリピーターとなることだろう。

またメルマガでは血糖値を上げない酒宴の食事の順番などのアドバイスを送り、健康への注意喚起を行うことも可能だ。

前述のように「かかりつけ健診機関」となることで、一見対応ではなくなり、生涯を通じて節目、節目でやっておくべき基本健診以外の検査項目を勧めることが可能になる。

「40歳になった女性には、そろそろ乳がん検診を行っておきましょう、とか、50代の男性なら、胃がん、大腸がんの詳細検査をしましょう、など。金額負担はあっても、ライフステージに応じた健康投資がしやすくなります」

毎年の健診で自らの生活習慣や健康を振り返ることで病が予防できれば、「元気で長生き」が実現することだろう。

健康経営の導入で
ヒトも企業も元気に

「最近では経営者の方とお話しする機会が増えています」と古井氏。

キーワードは「健康経営」である。

従来の健康管理は、これを維持するための出費をコストと捉えた「守り」だったが、超少子高齢化による平均年齢の上昇に伴い、労働生産性が低下する恐れが出てきたのだ。

健康経営は、従業員を企業が成長する上で貴重な経営資源とし、戦略的に健康投資することで、収益をプラスにする経営手法である。

「最新の予防医学の研究により職場によってなりやすい病気や重大疾患の割合も異なるという、職場による『健康格差』があることがわかっています」

例えば営業系の会社では、血糖値が若年より高くなり、システム会社では血圧が高くなるということがデータから明らかになっている。

特定健診を実施する大企業の健保組合、中小企業の協会けんぽでは、業種別の大規模な健診データがレーダーチャートで表示され、自社のデータと比較検討ができる。要請すれば、保健師などに直接アドバイスを請うことも可能だ。

「健康経営というと、これを実現する健康パッケージのソフトがあるのかと聞かれますが、そうではありません。中小企業では、協会けんぽなどから得た情報をもとに職場の環境を見直し、社員に健康に関心を持ってもらうことが大切です」

例えば事業所内の自販機のドリンクの傾向が、そこの従業員の健康度合いを測るモノサシにもなる。

「血糖値が高い職場には、欠食が多く、代わりにエナジー系のドリンクが多い傾向が。お茶などに入れかえてもらった方がいいかな、といった会話が事業所内で出るようなら、健康経営が浸透していると言っていいでしょう」

2014年6月、政府の成長戦略(日本再興戦略・改訂2014)で「健康経営の社会的評価」が掲げられ、企業の取り組みに追い風が吹きつつある。

「中小企業、大企業ともに医療保険や自治体との協働で健康増進活動が進めやすくなりました。従来、病気のときに使った『健康保険証』が健康づくりにも活用できるようになったのです」

まだ耳慣れぬ言葉だが、「健康経営」を実践しているか否かで企業価値が問われる日は近いかもしれない。