20代、がんの遺伝子研究の難しさに直面した経験を経て、過疎地に赴き、出前医療を経験。そこで健診を起点とした予防医学の重要性を痛感。個人には健康管理の大切さを、経営者には健康経営の実践を訴える。

働き盛りの世代に
高まる病気のリスク

古井祐司●ふるい・ゆうじ
東京大学政策ビジョン研究センター特任助教/ヘルスケア・コミッティー株式会社エグゼクティブ・フェロー。東京大学大学院医学研究科修了、医学博士。厚生労働省、経済産業省、内閣府、保険者団体などで委員を務める。専門は予防医学、保健医療政策。著書に『会社の業績は社員の健康状態で9割決まる』(幻冬舎)、『社員の健康が経営に効く』(労働調査会)など。

2008年度から導入された特定健診制度では40歳から74歳の該当者に向けて、健診及び健診結果を用いた健康情報を提供。併せてメタボリック・シンドローム該当者への生活習慣病予防を目的とした特定保健指導が行われ、定着してきた。

一方、先進的ながん検診や人間ドックにおいては検査機器や検査方法が飛躍的な進歩を遂げている。PET-CTは微細ながん細胞からアルツハイマーまで検知し、PEMは5ミリ以下の乳がんを検知する。テロメスキャンは血管内を浮遊するがん細胞まで見つけだす。遺伝子検査を行うことで生活習慣病などに対する予防意識を啓発する。

特定健診にこうした先端医療検査を加えれば、健康管理は盤石なものとなるように思える。しかし、実態はそううまくはいかないようだ。

「健診で異常が見つかった受診者のその後の行動を調べてみると、再検査や医療機関へ受診しない方が、数多くいることがわかりました」。そう語るのは長年、医療保険者の保健事業を支援し、産官学で予防医学の研究を推進してきた古井祐司氏(東京大学政策ビジョン研究センター特任助教)である。

古井氏は全国の健診結果データと医療機関に受診した費用明細のレセプトデータを解析。その結果、働き盛り世代で心筋梗塞、脳梗塞といった重症疾患を発症している人の3人に2人が治療を受けていなかったことがわかったという。

つまり、せっかく健診を受けても、検査結果を見て、自らのリスクを認識せず、「専門医にかかる、再検査に行く、生活習慣を改善する」といった行動に結びついていなかったのだ。

「毎年、健診を受けることが目的化されてしまって、約7割が自分の健診結果を見ていないか、覚えていないという調査データもあるほどなのです」

そこで古井氏は働き盛り世代には、「かかりつけ医」ならぬ「かかりつけ健診機関」が、健診を起点に受診者に継続して寄り添うことが重要と指摘する。