ザハ案について専門家も太鼓判
新国立競技場の建設計画が白紙撤回された。総工費2520億円の見積もりに対する世論の批判に応えた形だ。しかし、予算が巨額に膨らんだ原因は、本当にキールアーチ主体のデザインなのだろうか。建築家のザハ・ハディド氏は「建設費の高騰はデザインが理由ではない」との声明を発表した。
旗色が悪いことを承知のうえで、私は彼女に同意したい。ゼネコンの幹部にも問い合わせて確認したが、ザハ氏は悪くない。そして、事実関係をどう検証しても下村博文・文部科学大臣に責任はない。
日本のメディアで諸悪の根源のように扱われているキールアーチ構造だが、採用しているスタジアムは多い。建設コストもそれほど高くない。
2000年のシドニー五輪、04年のアテネ五輪のメーンスタジアムはキールアーチ構造が採用されていて、総工費はそれぞれ、680億、350億円と報じられている。ロンドンの8万人収容のウェンブリー・スタジアムは、1本のキールアーチ構造を採用して1000億円だ。
日本にもたくさんある。サッカー専用だが、新国立と同じくキールアーチ2本の埼玉スタジアム2002は収容人数約6万3000人で350億円。キールアーチに加えて開閉式の屋根まで付いた愛知県の豊田スタジアムは収容人数約4万5000人で約300億円。いずれも10年以上前に建設されたもので、ザハ氏のデザインのような太いアーチを使っているわけではない。収容人数8万人、開閉式屋根、可動式座席、大地震に備えた免震構造といった新国立競技場の設計の要件とは違うことは承知しているが、屋根だけで1000億円などという見積もりがありえないことがわかる。