2015年6月2日(火)

世界に負けない「日本の農業」改革私案

大前研一の日本のカラクリ

PRESIDENT 2015年6月15日号

ビジネス・ブレークスルー大学学長 大前研一/小川 剛=構成 AP/AFLO=写真
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農業分野の加工貿易立国、オランダ

前回(http://president.jp/articles/-/15241)、オランダのスマートアグリについて触れた。国土面積は九州とほぼ同じくらいで、農地面積は日本の半分以下という限られた農地面積ながら、オランダ農業の生産性は高く、農業輸出額はアメリカに次ぐ世界第2位(約10兆円)。

オランダの農作物輸出には3つの特徴がある。1つはトマト、キュウリ、パプリカなど国内で生産した付加価値の高い農産物の輸出。2番目は輸入した原材料を国内で加工して輸出する加工貿易。たとえばドイツやフランスから輸入した牛乳はゴーダ・チーズなどの乳製品に加工して輸出しているというように、輸入した原材料を加工して付加価値をつけて輸出している。

さらに3番目は輸入したものをそのまま輸出する中継貿易。オランダは商人の国だから、生産地と消費地をつなぐビジネスが昔から得意だ。オランダといえば世界シェアの6割以上を占める花卉産業で知られているが、取扱高の2~3割がアフリカや中南米産。オランダの花卉事業者は種子や設備をアフリカに輸出、労働コストの安いアフリカで花卉を栽培し、それを本国に逆輸入して世界最大の花卉市場にかけてから、EU各国や世界に輸出されていく(最近では取引市場だけ経由して現物はアフリカからドイツへ直接輸送される、などの形態が多い)。日本は資源や原材料を輸入し、加工した工業製品を世界に輸出する加工貿易立国として身を立て、輸出産業の世界化を進めてきた。同じことをオランダは農業分野で実践している。

ただし、オランダの真似をすれば日本もうまくいくという単純な話ではない。そもそもクオリティ型農業へのシフトに成功したとはいえ、オランダ農業が完全無欠というわけではない。過剰生産による価格低下や競合国の台頭、過度な選択と集中の弊害で研究開発が偏ってトマト、キュウリ、パプリカ以外の品目になかなか移れない、といった課題がある。それに日本とオランダでは農業を取り巻く環境や条件が異なる。オランダは隣国と陸続きで、関税障壁のないEUという単一市場のワンピース。ドイツやフランスなどの大消費地が近いので、近郊型農業・園芸に適している。島国で国内に大消費地を抱えている日本とは地理的条件が異なる。またオランダは国民所得の高い近親諸国(英・独・仏・ベルギー・ルクセンブルクなど)に囲まれているが、日本はアジアで最も所得が高い。しかもEU加盟国同士では深刻な対立が少ないが、日本は近隣の中韓との関係をこじらせている。

ほかにも食文化が割合似通っているヨーロッパに比べてアジアでは国ごとに独自の食文化があるとか、北海油田から安価な天然ガスが供給されるオランダに対して、日本はもともとエネルギーコストが高く、昨今は原発の稼働停止と円安が追い打ちをかけているなどの違いも挙げられる。

このようなオランダ農業の課題、環境・条件の違いを考慮に入れて、ただ真似するのではなく、日本にマッチした導入の仕方を考えなければいけない。真似するだけなら、すでに韓国や中国がオランダ型の施設園芸農業を取り入れていて、ノウハウ面では日本よりも先行している。日本としては生産性や効率性重視の同じ土俵で勝負するよりも、品質や品種、種類の豊富さなど日本の農業が培ってきた技術を活かした日本型クオリティ農業を目指すべきだろう。

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