情報の宝庫だから電車通勤をやめない

エステー会長 鈴木 喬氏

お米の虫除け商品である「米唐番」の名前をつけたときも、部下は「米番頭」でどうですかと聞いてきたんです。そこで僕は社員を集めて、15分だけ緊急ミーティングを開き、街を歩いていて浮かんだ歌を披露しました。

「米がうまいよ米唐番。虫がこないよ米唐番。ドンドンヒャラヒャラ、ドンヒャララ~♪」

この歌に沿って、デザインとCMと販売計画をつくれ、って言ったんです。だいたい社内で開発会議はやらないし、市場調査は相手にしない。アイデア募集は絶対しない。エモーションが会社を動かし、顧客を惹きつける。僕のところは「世にないことをする会社」。リスクは高いが、そういう気概を持って自分を高めれば、フィーリングが磨かれていく。

こうした感情を膨らませるためにも、僕は現場に出ていきます。社用車は使いません。特別暑いときや寒いときにはタクシーに乗ることもありますが、それ以外は電車通勤。電車は情報の宝庫。中吊り広告で最近のニュースもわかるし、乗っている人の服を見れば、流行のファッションや衣替えの時間などもわかります。

帰宅時は各駅停車に乗る。JR、地下鉄などいろいろな経路で、途中駅で下車し、お店を見ながら帰る。買い物客のフリをして「最近はどんなものが売れているの?」などとほかのお客さんや店員から話を聞きます。じっくり聞きたいときは、名刺を出して聞きます。驚かれますが、面白がって話をしてくれます。休日も出かけます。散髪は床屋でなく美容院に行くことに決めていて、そこに来る女性たちに話を聞く場合もあります。

ただ、お客さんがいいという商品をつくっても、社長が体を張って売るという思いがないと、社内もまとまらず売れない。CEOは本物のマーケッターたれ、と言いたい。

(06年4月3日号 当時・社長 構成=金井良寿)