1月31日、トマ・ピケティ氏が来日会見を行った。日本メディアの関心は、「アベノミクスと消費税増税は是か非か」に集中した。

低成長期に不平等は拡大する

過去の経済学の大物たちの著作とトマ・ピケティ氏の著書『21世紀の資本』との大きな違いは、所得と富の分配という経済学の中核テーマについて、前者がもっぱら理論が主であるのに対し、後者は長期にわたる膨大なデータを集めて分析した点である。歴史の経過と世界中の協力者、IT技術が進歩した現在において初めて成しえたことだ。

まず、格差の度合いについての歴史的な推移を、その貴重なデータから読み取ってみよう。日・米・欧の全所得の上位10%のグループの所得が、国民の所得全体のどれだけを占めているか(図表参照)をみると、1930年代~60年代は日・米・欧とも大きく下がっている。

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収入上位10%の人の収入が全体の収入に占める割合の推移

「これは第一次世界大戦、大恐慌、そして第二次世界大戦という大きなショックによって資本が破壊され、それが所得や富に大きな影響を与えたと考えられます」(ピケティ氏、以下同)

2つの大戦の後、日・米・欧はいずれも年4~5%の経済成長を経験。特に日本のそれは年10%を何度も超えた。このころに働き盛りだった世代は高い経済成長率の下、所得の右肩上がりが当たり前。額に汗して働けば、資産を蓄積することが誰でも可能だった。

「みんなが上げ潮に乗っている状態では、格差など問題視されないでしょう」

ところが、低成長期に入ると、グラフは再びジリジリと上がっている。

「1970~80年代から格差が徐々に広がっていることがグラフからもわかります。特に米国において顕著です」

低成長下でこそ、不平等は問題視される。ピケティ氏が導き出した「資本主義の法則」によれば、国民の資産総額と国民の所得総額を比べると、経済成長率が低いときほど資産総額の比率が大きくなる(第2法則、国民の貯蓄率が一定であると仮定)。

しかもこの比率が大きくなるほど、国民の所得(労働所得+資本所得)の中の資本所得、つまり株や不動産等から得る所得の割合が上がる(第1法則、資本から得られる収益率が一定と仮定)。

ざっくり言うと、低成長下における稼ぎに関しては、労働者より資産家のほうが明らかに優位なのだ。

「低所得者の所得の伸びよりも、高額所得者の所得の伸びのほうがずっと大きい、とは誰もが実感している。80~90年代の日本では、上位10%グループのシェアは30~35%。近年では、経済成長がほぼゼロに近い状態の下で40%近くまで上昇しています」