2014年12月30日(火)

なぜ高倉健の食事シーンはリアリティがあるのか

高倉健が愛した映画・音楽・絵画(3)

PRESIDENT Online スペシャル /PRESIDENT BOOKS

著者
野地 秩嘉 のじ・つねよし
ノンフィクション作家

野地 秩嘉

1957年、東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業。美術プロデューサーを経て作家へ。『キャンティ物語』(幻冬舎文庫)など著書多数。監修・構成した『成功はゴミ箱の中に』(プレジデント社)が10万部のベストセラーになる。

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ノンフィクション作家 野地秩嘉=文 東映=写真提供
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2日間絶食して臨んだ撮影

高倉健が亡くなったと発表された日のこと。わたしは友人とふたりで、三軒茶屋の小さな日本そば屋に行った。

「ビールください」と頼み、ふたりで空の上にいる高倉健に献杯した。その後、「ラーメンとカツ丼ください」と言ったら、顔だけは知っているおばさんが「どうしたんだろうねえ。今日はラーメンとカツ丼食べる人が多いね。どうしてなの?」と逆に尋ねられた。

みんな、同じことを考えているんだと思った。三軒茶屋には映画好き、高倉健ファンが大勢いるとわかった。

「しょうゆラーメンとカツ丼」

高倉健ファンにそう言えば、誰もが「ああ」とうなずくはずだ。

『幸せの黄色いハンカチ』(1977年 松竹)の冒頭、刑務所から出てきた高倉健が町の食堂に入る。

「ビールください」と注文した後、壁に貼ってあるメニューをじっと眺める。そして、まさにしぼり出すような声で「しょうゆラーメンとカツ丼」と告げる。運ばれてきたラーメンとカツ丼を高倉健はむさぼり食うのだが、下品な食べ方ではない。

同作品の監督、山田洋次は亡くなった日の夜、こんなコメントをしていた。

「あの時、健さんは1日か2日、絶食して撮影に臨んだと後で聞きました。そういう人なんです」

実際には彼は2日間、水だけしか飲まなかったという。そうやって、芝居のリアリティを出したのである。

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