菊は食べるもの?

今年の10月2日は旧暦の9月9日で、重陽いわゆる菊の節句にあたる。わが亡父は晩年、観賞用の菊栽培に没頭し、この時期は大輪を咲かせて学校や公民館へ強引に持ち込んで飾らせてもらっていた。

菊は、観るよりも食べるもの、と決めている私は、よく父から、

「もってのほか、じゃ」

などと軽蔑されたものであるが、山形を旅したとき、「もってのほか」が食用菊をさすと知って、つい、小言を思い出したものである。

食用菊は東京で知ったのだが、春菊のほろ苦さをこよなく愛する私にしてみれば、それを上品にして、しかも見た目が紫だの黄だの美しい花びらが「食える」とは、驚きと同時に喜びであった。ただし、生のものが出荷されるのは10月中旬から下旬、その一大産地が山形なのである。

ひと昔前、天童市へ写真家の高橋曻さんと旅して、菊のおひたし、玉蒟蒻、あけびの袱紗物などを肴に「出羽桜」や「王手」などの地酒を酌み交わしたことがある。

高橋さんは開高健さんの釣行のほとんどを写真に収め、それにまつわるエッセイなどでも知られている。ある雑誌で企業経営者の談話と近影を掲載する企画があり、そこで私は高橋さんと知遇を得、なんと6年間、毎月お会いしていた時期もあった。

天童へはたまたまプレジデント社の仕事で、将棋の駒作りの名人に会って、それを撮影するというものだった。番太郎駒と呼ばれる独特の書体を漆で書く「盛り揚げ駒」のその隆起した文字を高橋さんは、

「照明なし、自然光で表現する」

張り切って、助手さんへの怒声罵声もいつになく気合いがこもる。4の5と呼ばれる大判カメラを用い、遮光布を忙しく被ったり脱いだりして蛇腹でピントを合わせ、シャッターを切る。その一瞬、爆弾のスイッチを入れるような気魄がほとばしった。