「この悪い流れを断ち切れる人材がいない」

時事通信フォト=写真

「今のソニーでは、誰が社長をやっても同じですよ。平井さん(一夫社長)が責任を取って辞めたとしても、この悪い流れを断ち切れる人材がいない。いるのはソニーがベンチャー企業だった時代ではなく、大企業になってから入社して、無難にやってきた世代の人ばかり」

9月17日、今期の業績予想を2300億円の最終赤字へと下方修正。また上場来初めて配当を見送り、スマホ事業では1000人程度をリストラすると発表したソニー。その内情を、同社で研究開発を手がけていたOBの一人はこう語る。

「本当にすごいものを世に送り出すことより、自分の業績を素晴らしいものだと言い張り、出世競争に明け暮れてここまできた人が上に立つと、造反を恐れて自分に似たタイプの人材を下につけ、統治しようとします。それを見た下の人間は、自然と“物言えば唇寒し”という姿勢になる。このスパイラルを断ち切る特効薬はない。トップが自己犠牲の精神に立って改革に取り組まないかぎり、ソニーは変わらないでしょうね」

平井社長は会見で、スマートフォンビジネスの皮算用が外れたことを巨額赤字の理由として挙げた。ソニーの“捕らぬ狸の皮算用”病は今に始まったことではない。90年代半ば以降、打つ策の大半が外れたと言っても過言ではない状況だった。たまたま家庭用ゲーム機「プレイステーション」が大ヒットするなど、いくつかの追い風でその失敗が見えにくかっただけだ。

かつて、自動車業界のホンダと並び、戦後最大のベンチャーと称賛され、グローバルブランドとしてSONYの4文字を輝かせたソニー。そのブランドイメージを作り上げたのは、技術力でもなければイメージ戦略でもない。世界の共鳴を呼んだのは、文化に影響を与えるような革新的なものを生み出そうという気概だった。

ウォークマンはソニーの革新的ものづくりの象徴としてよく取り上げられる製品だ。カセットプレーヤーを腰にぶら下げて持ち運ぶくらいのサイズに押し込めたエンジニアの努力も素晴らしいが、これもカセットプレーヤーを小さくしたこと自体がSONYの4文字を輝かせたわけではない。

「ウォークマンがアメリカに持ち込まれるや、ヒップホップなどアメリカのサブカルチャーを、ホールやスタジオから路上へと引っ張り出した。それがなければ、ソニーは一般ユーザーにとっては単なるテレビメーカーの一つだっただろう。今日のアップルもそうだが、カルチャーやライフスタイルに影響を与えることは、強い信仰を生むことにつながる。ソニーはそのことを読み切ってウォークマンを発売したわけではないのだろうが、その半分まぐれ当たりのような成功からもう少し何かを学ぶべきだった」(映画配給会社幹部)