左肩脱臼、あわや溺死!

ハワイでの仕事が終わって、翌日帰国だけどちょいと時間潰しをという私にマウイ島在住の写真家トム・ハールさんがOKと、車に乗せ、ホノルルから東へダイヤモンドヘッドを越えた先で、日没までには迎えに来るから、と降ろされたのが、サンデービーチであった。

そこはボディサーフィン発祥の地で、常時6、7メートルの大波が打ち寄せている。もっとも、その大波を一つ二つと潜ってかわし沖へ出れば、うねりがあるだけで、表面上は穏やかだ。ぷかぷか浮いて、適当な波にわが身をまかせ、横滑りして、トドかシャチよろしく波打ち際にすうっと滑り込めば、成功だ。

時を忘れて遊んでいるうち、ふと気づくと10メートル級の高波に乗っていて、ほう、さすがに眺めがちがう、と感心した次の瞬間、猛烈な力で巻き込まれ、一回転、二回転して激しい衝撃を左肩に感じた、と思ったら、左腕がだらん、と垂れさがって手の感覚がない。

「いかん!」

波もろとも砂に叩きつけられたのだ。転瞬、砕けた大波はすさまじい吸引力で這いつくばった私を沖へ浚おうとした。

「もって行かれたら死ぬ」

亀より速く蟹より遅く、右手と両足で砂をかき、無心に波打ち際をはいあがった。

一難去り、ほっと一息ついて、さて、左腕をどうしよう、と右手で持ち上げ、こねたり回したりしていたら、どうにか関節はつながったらしく、指を動かせるようになった。不思議とこのときは痛みを感じなかったのだが、ひと晩寝て、さあ帰国となって物に触れると、肩までぴりぴりと疼痛がきた。だが、病院にも行かず、我慢しているうち治ったのだから、痛風発作と比べれば脱臼なんぞたいしたことはない。(※あくまで個人的な感想です)

ハールさんには左肩のことは内緒にして、その晩はご自宅でのお別れ会に招かれ、「生還」の祝い酒となったのが、ナパ・ヴァレーのフュメ・ブランであった。