利益率の高い直営店の数が急増
17のラグジュアリーブランドと5つのスポーツ&ライフスタイルブランド。ケリングが擁するトータル22のブランドは、成り立ちや歴史はもちろん、客層やコンセプト、世界観に至るまですべてが異なる。個性の異なるブランドが自らの力で成長できる支援体制をグループとしていかに強化すべきか。ピノー氏が力点を置くのはそこだ。
【ピノー】「ブランドはそれぞれ表現の領域が異なります。商品やイメージはブランドにとって一番大切な要素。そこは共有したり、バッティングすることは避けなければならないが、グループとしてシナジー効果を発揮すべき要素もあります。例えば、ロジスティックです。私たちはスイスにロジスティックの共通した拠点を置き、フランスやスイス、イタリアで生産された17のブランドの商品はスイスの倉庫に送られ、そこから世界から地域へ、そして直営店や卸のお客様に出荷されます。
不動産についても同様ですね。ラグジュアリー、スポーツの両方で1つのチームが担当し、このチームが世界の主要な都市の家主や地主を把握し、店舗の立地選定から開店に至るまでの支援を行っています。人事や法務、コミュニケーションについても世界や地域の組織が担当する効率的なシステムでブランドの成長を支援しているのです」
相乗効果がいかんなく発揮された好例が、イタリアのレザーブランド、ボッテガ・ヴェネタだろう。ケリングに買収された直後の02年、同ブランドの売り上げは5600万ユーロ(78億円)に過ぎなかったが、13年には17倍に膨れ上がった。
利益率の高い直営店比率の伸びにも注目したい。02年当初、直営店数は39店しかなく、売上比率は全体の30%にとどまっていたが、現在では世界に226の直営店を構え、そこから全売り上げの8割を得ている。ブランド価値のコントロールが難しい卸での売上比率を下げ、積極的に直営店を出店することができたのも、世界中から迅速に精度の高い好立地、好物件の情報を入手しては適正なブランドを見極めて出店を図るケリンググループの強力な支援体制があるからだ。
日本でもボッテガ・ヴェネタの存在感は増した。以前は知る人ぞ知るブランドだったが、ケリングの傘下に入った後、ラインナップを宝飾品、時計、家具にも広げ、たくさんの熱狂的なファンを生み出した。品揃えが増えてもクリエイティブの軸はぶれない。これもまたピノー氏が重視する点だ。
【ピノー】「クリエイティビティは唯一無二でなければならない。企業の一部分になってはいけないのです。私たちが、ブランドに対して全責任を持つ一人のクリエイティブのトップを設けているのはそのため。クリエイティブは我々のパートナーです。CEOの役割とクリエイティブディレクターの役割をはっきりと分け、互いに均衡を保って互いに補完しながら、戦略を推し進めていくグループはほかにはないと思います」