「あれをしたらダメ」「これもダメ」各社で行われているパワハラ研修はダメ出しばかり……。では、いま上司はどう叱ったらいいのか?

叱るべきときには、きちんと叱りたい。しかし、パワハラといわれると、後が怖い……。この点について、2000年に発刊した著書『上司が「鬼」とならねば部下は動かず』が50万部を超える大ヒットとなり、現在でも版を重ねている人材教育会社・アイウィル社長の染谷和巳さんの考えは明快だ。

「家庭内のいざこざでむしゃくしゃした気持ちを職場に持ち込み、その鬱憤晴らしで何の非もない部下を怒鳴り散らすような上司がたまにいます。部下は戸惑うばかりでしょう。ましてや自分の人格まで否定されたら、我慢の限界を超えてしまう。これはもうパワハラ上司といわざるをえません。それに初めからがんがん叱り飛ばすのも同じです。叱る対象は会社内での行為に関してで、それも『教える』『注意する』という前段階が必ずあります。これを踏み外していないのなら、どんどん叱らなくてはいけません。上司は鬼上司であるべきなのです」

普段、部下に対して厳しく指導し、ときには叱責も厭わない自他ともに認める“ガミガミ上司”の皆さん、「自分の私的な感情で部下を叱るようなことはない」と100%いい切れるのなら安心だ。

ところで、染谷さんは会社内での行為を叱るというが、具体的にどのようなときに叱るべきなのだろう。これは初めて部下を持った上司が迷う点だ。

「挨拶、言葉遣い、服装、姿勢、時間厳守など、会社の秩序や規律を乱すようなことがあった場合です。そんな細かいことをと思うかもしれません。しかし、秩序や規律を守るということは、会社組織に対して忠誠を示す本人の意識の表れなのです。忠誠心のない部下にどんな業務上の命令を与えても、彼らは心の底から受け入れないでしょう。ですから、そうした細かいことをまず教え、守れなかったら注意をする。それを何度繰り返しても直らなかったら、そこで叱ります」

そう語る染谷さんが最近心配しているのは、叱らない上司が増えていること。新卒社員を対象にした“理想の上司”に関するアンケート調査でよく上位にあがってくるのは、温和で理解力のありそうな役柄を演じる役者だったり、友達感覚で話せそうなタレントだったりする。「それを見て、下手に叱って部下から嫌われると嫌なものだから、つい細かいことに目をつぶってしまうようです」と染谷さんはいう。