真に“仏の上司”と呼ばれる人がいるのなら、権威があり、誰からも尊敬されている人物のはず。取り立てて叱らなくても、「ちょっと君、それは違うんじゃないかな」と一言いうだけで部下のほうが恐縮して、上司のいわんとすることを斟酌し、自ら行動を改める。部下にしてみたら、尊敬する上司から声をかけられただけで嬉しくて仕方がないのだ。しかし、数多の修羅場をくぐり抜け、人生経験も豊富な“大経営者”でもない限り無理な話である。

「勘違いしている上司も多いようで、『自分はできた人間で、君たちよりも立派なのだ』ということを示したいがために、叱ることを否定している面も強いように思います。本来、部下の指導は部長や課長など中間管理職の仕事なのに、彼らがそれを放棄してしまったので、気がつくと社長が一番ガミガミいっていたりする。その結果、経営に専念できずに社業が傾いたら、もう悲劇というしかありません」

染谷さんの話を聞いていると、ガミガミ上司は自信がわいてくるはず。叱る際には部下の心に刺さる言葉、たとえば遅刻が常習化している部下には「月に3回も遅刻するのはおまえだけだ。就業規則を知っているのか」といえばいいそうだ。何度も注意をした実績があれば、周囲の人間も叱られて当然と考え、パワハラ行為とは見ない。

叱られた部下はプライドを傷つけられたと思うかもしれない。しかし、また遅刻すればもっと叱られることがわかっているし、会社を辞めてもいいという意思表示になってしまうことも理解できている。だから、きちんと始業時間前に出てくるようになる。そうやって部下の行為が直れば、上司が叱ったことは成功で、自分の役割を見事果たしたことになる。

万が一、何度叱っても態度の直らない部下が仕事で大きな失敗をおかした場合には、ガミガミ上司はどう対応したらいいのだろう。染谷さんはいう。

「大切なお客さまから接客態度が悪いといって怒られて、1000万円分の仕事をキャンセルされるようなことがあったら、叱るのではなく上役と相談をして、減俸、降格、厳しい場合には解雇という会社としての処罰を規則に沿って粛々と下せばいいのです。部下への対応には『叱る』『罰する』、その対極の『褒める』『賞する』という4つの段階があることを覚えておいてください。重要なことは罰することなどにならないよう、部下を一人前にしようと愛情を持って叱ることなのです」