2014年6月10日(火)

なぜ「AKB48」には握手会が必要なのか

PRESIDENT 2014年6月30日号

著者
濱野 智史 はまの・さとし
社会学者・批評家

濱野 智史1980年生まれ。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター研究員を経て、現在は日本技芸にてリサーチャーを務める。専門は情報社会論・メディア論。著書に『アーキテクチャの生態系』『前田敦子はキリストを超えた―〈宗教〉としてのAKB48』、共著に『希望論―2010年代の文化と社会』『AKB48白熱論争』などがある。

答える人=濱野智史(社会学者・批評家)
1
nextpage

「ファンはオタク」は現場を知らない偏見

去る5月25日、アイドルグループ「AKB48」の握手会で痛ましい傷害事件が起きた。参加していた2人のメンバーが、刃物を持った犯人によって突然切りつけられたのである。この事件をめぐっては、マスメディア/ソーシャルメディアを問わず、大きな議論が巻き起こった。その中には、「『AKB商法(握手などの特典券つきでCDを大量に売りさばく手法)』の限界が来た」「アイドルの女の子を危険に晒すことになる握手会は廃止すべきだ」といった批判も少なくなかった。

こうした指摘は的外れだと言わざるをえない。報道によれば、容疑者の男は詳しい動機について明らかにしておらず、「切りつけたメンバーの名前は知らない」と供述しているという。おそらくAKB48の熱心なファンではなく、これまで何度も繰り返されてきた芸能人や著名人を狙った事件の一つに過ぎない。必要なことはセキュリティ対策の向上に尽きる。

AKB48の運営会社は休演していた劇場公演を再開するにあたり、金属探知機を導入するなど警備体制を強化した。いまは見送られている「握手会」についても、十分なセキュリティ対策を施した上で、再開されるだろうし、そうすべきだ。ある運営幹部は「テロには屈しない」と話したとも報じられている。批判的な人からすれば「そこまでしてAKB商法にしがみつくのか」と映るのだろう。だから批判にも晒されやすい。しかし、そうした見方は一面的すぎる。

本稿で明らかにしたいのは、「なぜそこまでしてAKBグループは握手会にこだわるのか」である。筆者は一人のファンとして、これまで幾度も握手会に参加してきた。自分がこの目で見てきたものを通じて、握手会の魅力と本質について説明したい。

おそらくPRESIDENT誌読者の大半(想像するに99%近く)は握手会に行かれたことがないだろう。そして握手会について、次のようなイメージを抱いているのではないだろうか。

でっぷり太った気持ちの悪いオタクのおっさんが、か弱いアイドルの女の子と握手してブヒブヒ言っている――。

実は筆者もかつてはこうしたステレオタイプのイメージをもっていた。「握手会は気持ちが悪い」という偏見があったため、AKB48にハマってもなお、半年近くは握手会に行こうとはしなかった。むしろ、「握手なんてしなくてもAKB48は好きだから」と潔癖的な感覚を抱いていた。

PickUp