ケネディ大使、ブラッド・ピットとは旧知の間柄

建築家・坂茂氏

坂茂は、先月24日、皇居・宮殿で開かれたオバマ大統領歓迎晩さん会に招かれた。事前にキャロライン・ケネディ駐日大使から電話が入っていた。ケネディ大使はメトロポリタン美術館に勤務した経験があり、建築に造詣が深い。坂とは旧知の仲である。

モニュメンタルな建築と、ボランティアの仮設建築を車の両輪として追求する坂のファンは世界に散らばる。映画俳優のブラッド・ピットもその一人だ。

ピットは、2005年8月に米国東南部を襲ったハリケーン・カトリーナの災害を「堤防建設を怠った人災だ」と憤り、復興支援の団体「Make It Rite」を創設した。書籍を通して坂の活動を知ったピットは、直接、コンタクトをとってきた。09年8月、ふたりはニューオーリンズの復興住宅で会い、対談をしている。坂が、被災者のために建築の経験と知識を使いたくて仮設住宅の建築に携わってきた、と述べると、ピットはこう言った。

「それはある種、建築における聖杯のようなものではありませんでしたか。建築家はキャリアのどこかの時点で、低所得者の住環境について、少なくとも考えてみるものでは……」(『Voluntary Architects,Network建築をつくる。人をつくる』INAX出版)。

キリスト教徒にとって「聖杯」の意味は重い。聖性の象徴であり、権力を正当化する根拠とも解釈される。さらに坂が、特権的な人、貧しい人、両方のための建築を志していると語ると、ピットは深い共感を口にする。

「なるほど。僕から見れば、それこそが建築というものの真の定義ですね。建築はすべてを包括せねばならない。最高の建築は、問題に出会うと、その問題に対する最良の解決策を提示するものです。確かにこのあたりにあるのは、特権者のためのモニュメンタルな仕事ではない。でも最高の建築です。人々を家に帰らせてあげることができたのですから。(中略)建築にまつわる誤解のひとつに、美観にしか関心がない、見てくれにしか興味がないというものがあります。僕ごときがあなたに言うようなことでもありませんが、どのように機能するか、日常生活にどう影響するか、日々や記憶をどう導いていくかのほうが、建築にとって大切なことです」(前同)

坂のプリツカー賞受賞は、このピットのような建築への「まっとう」な感覚が後押しした結果だった。