12年8月29日、「改正高年齢者雇用安定法」が成立、企業は、原則として60歳の定年後も希望者全員を65歳まで雇い続けることが義務づけられた。年金支給年齢の引き上げに伴う法改正で、13年4月より61歳になり、2025年度まで段階的に施行される。

2012年、野田佳彦首相(当時)率いる国家戦略会議のフロンティア分科会・繁栄のフロンティア部会は次のように「40歳定年制」を提言する報告書をまとめていた。

<人生で2~3回程度転職することが普通になる社会を目指すためには、むしろ定年を引き下げることが必要である。具体的には、入社から20年目以降であれば、労使が自由に定年年齢を設定できるようにすべきである(最速では40歳定年制を認める)>

新しい社会のあり方を模索するのはいい。でも、もうすぐ60歳になる社員は働き続けることができて、40歳になるほうは、ハイ、そこまでとされるとしたら理不尽だ。「部会報告書」をとりまとめた東京大学大学院経済学研究科の柳川範之教授に真意を尋ねてみると、こんなふうに明かした。

「私が一番気になるのは、中年以降の人たちが抱えている大きな不安です。今までの雇用のあり方はもう崩れてきています。実際、シャープやソニーなどで起きたようなことが、これからは他の産業でもどんどん起こるでしょう。45歳、50歳になって、勤め続けてきた会社から急にリストラされたら、なかなか再就職先が見つかりません」

それはそうだろう。けれども、「40歳定年制」は、リストラ不安をますます増幅させるのではないか。

「そうですね。40歳定年制という言葉に拒否感を覚える方々はたくさんいらっしゃいます。特に、これまで同じ会社で働いてきた中年の方で、家のローンが残っていて、子供の教育費もかかるといった場合、受け入れがたいでしょう。私も、中年の一個人として、その気持ちはわかります。でも、だから逆に、会社を離れることになっても次の職場でリスタートできる、安心感が得られる社会に変えていくことが急務だと気づいてほしいのです」