経営をつきつめたら禅の世界に行きついた

前川製作所顧問 前川正雄
1932年生まれ。1955 年、早稲田大学理工学部工業経営学科卒業後、前川製作所入社。1971年~同社代表取締役社長、1996 年~代表取締役会長、2002年~取締役会長、2009年~現職。愛犬ハチと。

戦略に戦術、ライバル蹴落とし、シェア奪還……企業の動きを論じるとなると、戦争かと見まがう勇ましい言葉が使われるのが常だが、この企業にはふさわしくない。前川製作所。創業は1924年で従業員3000名ほどの中堅企業だが、業務用冷凍・冷蔵機関連のメーカーとしては日本のみならず、世界でもトップクラスの売り上げを誇る。

同社が標榜するのは、無競争による「棲み分け」。他社が真似できない、斬新な製品を開発し、誰もが邪魔できない地位を築く。だから“戦う”必要がない。

例えば、「ニュートン3000」という冷凍機がある。エネルギー効率が従来機に比べ格段に優れているとともに、環境への悪影響が憂慮されるフロンではなく、自然物質のアンモニアを冷媒として活用する。省エネと優れた環境対応という点が評価され、国内では圧倒的シェアを誇り、海外にも大々的に輸出される。

また、骨付き鶏もも肉の自動脱骨ロボット、トリダスという製品。もも肉の脱骨作業は人手に100%頼らざるをえず、腱鞘炎がつきもののきつい肉体労働というのが常識だったが、それを打ち破った。きつい労働から人間を解放するとともに、脱骨に要する時間もそれまでの5分の1に縮めた。類機がないため、今や国内シェアは100%、海外にも10カ国以上に輸出されている。

このトリダスが典型だが、本業である「物を冷やす」分野に跼蹐(きょくせき)せず、食品、環境、ロボット、超電導、バイオと、縦横無尽に事業を広げてきたのも同社の特長だ。それをリードしてきたのが創業者の父親の跡を継いで社長をつとめ、現在は顧問という肩書の前川正雄である。

前川と禅との関わりは中学生時代にまでさかのぼる。「私の自宅に、禅のお坊さんが定期的に来ていて、禅の何たるかをわかりやすく解説してくれました。禅問答もやりましたよ。座禅は高校時代にはやめてしまいましたが、仏教ではあらゆるものに仏性があると教えるが、果たして犬にも仏性があるか、といった問答は今でも覚えています」。中学生といえば、論理や常識の意味がようやくわかる年頃だ。そんなとき、論理では説明できない非常識な問題に頭をひねらされたことは大きな意味があったのではないか。