日本ではなじみが薄い「算数障害」を扱った翻訳絵本があります。翻訳者に、障害の内容や、障害を気づくポイント、子供が算数障害だった場合、何ができるのかを聞きました。

50人に1人の子供が苦しんでいる

家で時間をかけてやればできるのに、学校で時間を競わせる計算テストになると頭も心もフリーズ。計算のできないダメな子と同級生からばかにされ、自分でもダメな子のレッテルを貼ってしまう……。

『算数の天才なのに計算ができない男の子のはなし』(バーバラ・エシャム:文、マイク&カール・ゴードン:絵)

『算数の天才なのに計算ができない男の子のはなし』(岩崎書店 1600円+税)には、そんな小学校3年生の男の子、マックスが主人公として登場します。

けれどもマックスは、九九は覚えられなくても、数学Iの問題はすらすらと解ける、実は数学の天才だったのです! 教師たちは、そんなマックスの才能を見抜き、そこを伸ばそうとします。

この絵本との出合いは、シカゴで開催された学習障害の国際学会会場。まず絵のかわいらしさに引かれ、そしてまだ日本では知られていない算数障害についての認識を多くの人に広めたいと思ったのが翻訳の直接的なきっかけです。

算数障害とは、知的能力には問題がないのに、ある一定の算数・数学に関することが著しくできない機能障害を言います。

日本の算数障害研究の第一人者の熊谷恵子筑波大学教授によると、算数障害は、大きく2つに分けられるといいます。マックスのように「数の処理や四則演算が苦手で、筆算や暗算にはつまずくけれど、数の概念が理解でき、数学的推論や数学的思考ができるタイプ」。

その反対に「数の処理や四則演算ができても数の概念が理解できず、数学的推論につまずくタイプ」です。著名な数学者でも計算が苦手な人がいるという話をよく聞きますが、数の概念を理解する力と、九九を覚えたり四則演算できたりする力は必ずしもイコールではないのです。

厳密に言えば、算数障害を客観的に評価する標準化されたテストはまだありませんが、2012年の文部科学省のデータ(※)によると、知的発達に遅れはないものの、「計算する」または「推論する」に著しい困難を示す小中学生の割合は2.3%。つまり、およそ50人に1人の子供が苦しんでいるのです。

07年から特別支援教育がスタートし、発達障害に苦しむ子供たちに対応してきていますが、こと学習障害は障害の幅と内容が千差万別なため、教師や保護者が気づきにくいといった問題があります。実際、算数のテストで点数が取れなかったとしても、集中力や記憶力が苦手といった原因も考えられ、判断が難しいのです。