M&A成功率が低い、製薬という世界

武田のグローバル化に力を発揮した長谷川閑史社長。(ロイター/AFLO=写真)

武田初の外国人トップが果たして機能するかどうか。私はうまくいくと思っている。ただし、それは長谷川氏のバックアップあってのことだ。

言ってみれば、日産のカルロス・ゴーン氏と塙義一前社長(当時)のような関係である。

日産リバイバルプランを策定したゴーン氏は“コストカッター”の異名通りにリストラに取り組むが、人的な部分などで何を残して何を切るべきか、外部からきたゴーン氏には皆目わからない。

その辺りの作業を実質的に取り仕切ったのは塙氏だった。ゴーン氏の派手な改革が社内外の反発を受けて立ち止まらないように、塙氏が道筋を付け、後ろから睨みを利かせていたのだ。少なくともゴーン改革の初期段階の真の功労者は塙氏だったと私は見ている。塙氏がいなかったらゴーン氏は単なる変わり者として弾かれていただろう。

同じように、ウェバー新社長が武田という日本最古の近代製薬会社を理解するうえで、そして武田の社員が初の外国人トップの差配を理解するうえで、長谷川氏の存在は重要だと思う。

長谷川氏の助力なしに、ウェバー氏1人で武田を率いて、総額2兆円で買ったミレニアムとナイコメッドというまったく異質の会社を1つの組織にまとめていくのは非常に困難だ。

M&Aというのは、どこの業界でも難しいものだが、製薬の世界ではことのほか成功率が低い。業界で一番M&Aに積極的なのは最大手のファイザーだが、M&Aをやるたび株価を下げてきた。

重複している研究開発を1つにまとめて開発コストが1+1=1.5になるとか、売り上げが1+1=2.5になるというのがM&Aによる買収の効果である。しかし、これが製薬業界ではなかなかうまくいかない。

開発部門は皆、自分の研究が将来モノになると思って取り組んでいるから、「これを削れ」「その部分はあそこと一緒にやれ」と効率優先で指示してもスムーズには動かない。

一方、販売部門はそれまで自社で取り扱っていないものまで売らなければならない。MR(医薬情報担当者)は自分が扱う商品の有効性や安全性を医療関連従事者に訴えて営業する。昨日まで「この薬はいいですよ」と推していたのに、今日から「この薬もいいんですよ」と別の薬を売り込む気にはなかなかなれない。たとえば糖尿系の薬を専門にしていたMRが、M&Aで心臓系の薬を取り扱わなければならなくなれば、販売ルートを一から開拓しなければならない。

このように開発現場でも販売の現場でも容易には買収の効果は出てこない。リーダーには相当な力量が求められるのだ。