筋肉や骨をはじめ体のすべてに悪影響を及ぼす

憧れのモデルや芸能人のように、きれいに、かっこよく、かわいくなりたい――。そんな乙女心が、最近では大人ばかりか中高生、さらには小学生にまで及んでいる。成長期は身長が伸び、大人の体へと徐々に成長するのだから、自然と体重も増える。ところが、“美”を追求する子供たち、特に女子にとっては、この体重増すら気になって仕方がないらしい。

だが、「成長期のダイエットは健康面ではすべてにおいて悪い事態しか招かない」と警鐘を鳴らすのは、カルシウムの吸収・利用に関する研究や成長期のライフスタイルと身体状況などに詳しい女子栄養大学教授・上西一弘先生だ。

「体ができあがった大人ならまだしも、小中高生は体が発育・発達していくまさに成長期にあります。この時期に誤った食事制限をすれば、筋肉や骨をはじめ体のすべてに悪影響を及ぼします」

成長期のダイエットが引き起こす問題で、特に重要となるのがカルシウム不足と貧血だ。貧血の場合は、すぐに「疲れやすい」「立ちくらみがする」「集中力がなくなる」といった事象が現れるので、本人も周囲も比較的気づきやすい。一方、事の重要性に気づかず、見過ごされやすいのがカルシウム不足。「多くの人は『カルシウム=骨』としか考えていません。これが大問題なのです」と、上西先生は言う。

「たしかに体内にあるカルシウムの99%は骨や歯にあるのですが、血液を介して体内のすみずみに運ばれ、体のさまざまな機能を調節しているのです。たとえば、筋肉の動きや心臓の拍動のスイッチを入れる働きをしているのもカルシウム。神経細胞の働きにも影響を与えるため、当然、脳の働きにも重要な役割を果たしています」

しかも、カルシウムは毎日一定量が尿とともに体の外に出ていってしまうというから厄介だ。

「人体では、骨の丈夫さを維持するよりも、体の機能を調節する働きのほうが生命維持の観点から優先されます。したがって、もし新たなカルシウムの摂取がなければ、骨に貯蔵されているカルシウムがどんどん使われ、さらに尿とともに排出されるので、骨がスカスカになっていってしまうのです」

成長期のカルシウム不足が招く悲劇はまだある。「最大骨量」という言葉を知っているだろうか。