三菱商事

総合商社の人材観をベースに
海外でも人づくりに協力

──三菱商事はアブダビでの日本語教育において、どのような役割を担っていますか。
吉川惠章●よしかわ・しげあき
三菱商事株式会社
常務執行役員 中東・中央アジア統括
1977年、国際基督教大学卒業、三菱商事入社。社長業務秘書、シンガポール支店長などを経て2008年より執行役員。13年より現職(UAE在勤)。

【吉川】グローバルな人材育成への貢献は、当社の社会貢献活動における大きな柱の一つです。総合商社は、従来は貿易を中心に、現在は事業投資に軸足を移しながら、国際的な舞台で活動を行っています。この活動を支えるのが、岡部さんも引用された「グローバルビジネスに堪える人材」で、当社の最も重要な経営資源ともいえます。そのような背景から、当社は長年にわたり国内外で奨学金の提供など人材育成の分野で社会貢献活動を行っています。アブダビではコスモ石油、立命館大学と連携し、ATHSの生徒たちの立命館高校への短期留学プログラムをサポート。昨年からは三菱グループ各社の協力を得て、工場見学を新たに加えており、生徒たちは日本のモノづくりの現場に高い関心を示してくれました。もちろん日本のポップカルチャーやサブカルチャーに興味をもっている生徒も多くいますし、留学は日本語力の向上に役立つ以外にも、彼らにとって実り多い体験だと思います。

──プログラムに寄せる期待と抱負をお聞かせください。

【吉川】これは日本人についても言えることですが、グローバル社会の一員になるには、異なった国や地域の人たちの文化・習慣・歴史・宗教を学び、少なくとも相手の発言の背景にあるものを理解しようという気持ちをもつことが大切です。昨年、アブダビで行われたATHS生の壮行会で、日本とのビジネス経験のある一人の父親が息子の旅立ちに際しての心得を披露しました。いわく「日本人は本気で時間厳守をする。10分前には必ず着いていること」「日本人はシャイだ。こちらから口火を切るように」。この生徒は留学中に父親の言葉の背景にある日本を体で理解したことでしょう。まさにこうした理解の積み重ねが大切です。

いまや当社を含め多くの日本企業がグローバルな人材の採用を行いつつあります。継続性を重視したアブダビの高校生に対する日本語教育が、将来的に日本へのさらなる関心、日本の大学への留学を促し、いずれ日本企業にとって有為な人材を育む──。 そしてそんなアブダビの若者が日本企業をはじめグローバルな舞台で活躍するという、良い循環を生み出せるよう願っています。

課外授業として、3年間で約350時間の日本語教育を実施する。左の写真は立命館宇治高校でのサマーキャンプの修了式。