本番に弱い、口下手、3日坊主……若い頃からの性質は変えられないと諦めてはいないか。人気の脳科学者が、誰でも、何歳からでもできる「自分を変える」法を伝授する。

有酸素運動は脳の衰えを防ぐ

「変えにくいもの」は、遺伝による影響と根強く関連しているコミュニケーション能力、やる気、ストレス耐性などの「社会関係力」です。したがって、このような能力を高めるには時間がかかりますが、けっして不可能ではありません。「変えにくいもの」をよくするための処方箋は、どの能力でも基本的には同じです。有酸素運動で脳の衰えを防ぐと同時に、いわゆる「地頭力」を高めれば、じわじわと効いてきます。

有酸素運動は、大腿筋を活性化させるスクワットやウオーキングがおすすめです。安静時と比較して酸素消費量が7%上昇する運動量が理想的ですので、ウオーキングは目安として普段の1.5倍の速度で歩いてください。

有酸素運動と同じく、脳の働きをよくするためには食事も大切です。脳にいい食べ物は、「人類の進化に即した食品」、つまり太古の昔から食べられてきたものです。人類はもともと菜食で、おもに豆やナッツ、ベリー類を食べていました。しかし、魚はかなり早い段階から食べていたと考えられます。魚には、DHA(ドコサヘキサエン酸)やビタミンB12など、地頭力を鍛えるにはとてもよい成分が豊富に含まれています。一方で、狩猟をともなう肉はそれほど昔から食べていたわけではないと考えられます。実際のところ、肉は魚のように脳によい栄養素がバランスよく含まれてはいないので、食べすぎないほうがいいでしょう。

アルコールは適度なら脳によく、特に赤ワインは脳の働きを高めるポリフェノールを含むのでよいと考えられていますが、過度の摂取は毒でしかありません。ニューロンが死ぬ速度を上げてしまい、そのために脳が委縮して老化を早めるのです。赤ワインは素材のブドウが脳にいいのであって、アルコールではありません。

「変えにくいもの」を伸ばすためには、「ワーキングメモリ」をよく働かせるようにします。これは、意味のある情報を一時的に意識に溜めておき、それを操作したり組み合わせたりすることによって答えを導き出す脳の機能で、「地頭」にほぼ相当します。ワーキングメモリを向上させることは、地頭を鍛えることにつながります。

ワーキングメモリを向上させるにはどうすればいいかというと、同時に複数のことをする状況をつくるのです。たとえば車の運転や料理、スポーツだったらサッカーがいい。まさに、四方八方に気を配りながら、瞬時に判断しなければなりません。人混みを速足で歩くことでも、サッカーと同じ効果が得られます。「この先に大きな荷物を持った人がいる」「あそこにお年寄りがいる」と視野を広く持ち、人の動きを予測しながら素早く歩きましょう。

人間性脳科学研究所所長、武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部教授
澤口俊之

1959年、東京都生まれ。北海道大学理学部生物学科卒業。京都大学大学院理学研究科博士課程修了。エール大学医学部研究員、北海道大学医学研究科教授などを経て、現職。専門は認知脳科学、霊長類学で前頭連合野を中心に研究。近著に『夢をかなえる脳』。
(構成=原賀真紀子)
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