塩を過剰摂取してもなぜ問題ないのか

ナトリウム(Na)が血管を収縮させることは間違いありません。そしてナトリウムの塩化物が塩化ナトリウム(NaCl)であり、化学的に定義される「塩」です。しかし、私たちが昔から口にしてきた塩には塩化ナトリウム以外にも、さまざまなミネラル(無機物)が混ざっています。

それは産地・製法の異なる塩を食べ比べてみればわかります。それぞれ味が異なりますし、しょっぱさだけでなく苦味やコク、酸味やうまみ、甘みすら感じる塩もあります。塩に含まれるミネラルのバランスが、味の違いを演出しているのです。

ミネラルとは生体を構成する元素のうち、酸素・炭素・水素・窒素以外の元素の総称です。

ナトリウムもミネラルですが、ほかにも「主要ミネラル」と言われるものに、カルシウム、カリウム、マグネシウム、リン、イオウがあります。また「微量ミネラル」と呼ばれる鉄、亜鉛、銅、ヨウ素、フッ素、セレン、マンガン、コバルト、モリブデンなども大切な役割を担っています。

「塩」には、こうしたミネラルが塩化ナトリウムに“結合された状態”で含まれているのです。これまでの主要な医学研究はナトリウムが血管を収縮する作用については証明しましたが、塩化ナトリウムにほかのミネラルが結合した状態でどのような作用を及ぼしているかは、解き明かしていません。

わかっている範囲では、例えばカリウムには血管を拡張させる作用(ナトリウムの逆)があります。また血液は体内を巡りながら腎臓を通る際に「糸球体」というフィルターでろ過されますが、ほかのミネラルがバランス減塩・無塩の間違いがわかる「塩」の新常識よく結合された状態であれば過剰な塩化ナトリウムがほかの老廃物と一緒に体外に排出されることもわかっています。

さらに、人体にはナトリウムが不足した場合に、再吸収するシステムも備わっています。例えば、人は常に汗腺から水分(汗)を蒸発させ肌を保護していますが、汗管といわれる部分でナトリウムや塩素を再吸収できます。ところが激しい運動をするなどして大量に汗をかくと、再吸収が間に合いません。そうすると体は味の濃い(しょっぱい)食べものを欲して、ナトリウムを補おうとするわけです。

このように人体には過剰な栄養素を排出したり、不足した栄養素を取り込んだり再吸収する機能が備わっています。そのため、理屈ではどれだけたくさん塩を摂っても問題はないのです。ただし、それは人類が何万年も摂取してきた「自然の塩」に限った話です。

多くの人は「塩というのは海水を乾燥させてつくったもの」と考えているでしょう。そうしたいわゆる「海塩」と呼ばれるものは、塩化ナトリウムが90%、残り10%はさまざまなミネラルから構成されています。

ところが、今日の日本で食用として販売されている塩や食品に使われている塩の多くは、海水を逆浸透膜やイオン交換膜を通して塩化ナトリウムだけを取り出した「精製塩」(化学塩)です。この製法でつくられた塩の塩化ナトリウム純度は99%以上で、ミネラルはほとんど残っていません。

多くの人が日ごろ食べているのは「塩」というよりは「塩化ナトリウム(NaCl)」と呼んだほうがふさわしい物質です。ミネラルが結合されていないのでナトリウムは体外に排出されにくく、摂れば摂るほど血管を収縮させる効果が研ぎ澄まされていくのです。

【図表】塩の4大分類とは