「通勤電車でお腹が痛くなる人」には意外な共通点がある。早稲田大学睡眠研究所所長で医師の西多昌規さんは「過敏性腸症候群と睡眠には密接な関係がある。睡眠の質を上げることで、腹痛が和らぐ人は少なくない」という――。(第2回)

※本稿は、西多昌規『眠っている間に体の中で何が起こっているのか』(草思社)の一部を再編集したものです。

腹痛でお腹を両手で押さえている男性
写真=iStock.com/metamorworks
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朝、急にお腹が痛くなるのはなぜなのか

朝起きたとき、とくに通勤や通学の際、電車やバスの中で毎日のように腹痛を起こして、途中下車して駅のトイレに駆け込むといったことで悩んでいる人が、実はかなりいます。過敏性腸症候群の人たちです。

過敏性腸症候群とは、腸に異常はないのに、慢性的な腹痛が起こったり、下痢・便秘などの便通異常が長期間続いたりする病気です。日本では、なんと10~20%もの人が過敏性腸症候群を患っていると報告されています。5~10人に1人ですから、かなり多い患者数です。

はっきりとした原因はわかっていませんが、ストレスや過度の緊張、自律神経の異常、腸内細菌の変化などが関係していると考えられています。過敏性腸症候群は、わたしがメンタルクリニックでの診療でもっとも診ることの多い消化器疾患で、薬剤を処方することもしばしばです。

こうした腹痛やお腹の調子の悪さ、便意は、仕事や学校のある平日の朝に起こりやすく、昼間や夜間、あるいは休日にはほとんど起こりません。このような特徴もあって、過敏性腸症候群はストレスのせいとよくいわれるのですが、本当なのでしょうか。

過敏性腸症候群になる本当の要因

実は、過敏性腸症候群に見られる朝の不調に、夜の睡眠が関わっているという事実は、ご存じない方も多いと思います。

過敏性腸症候群では、患者が自覚する下痢や腹痛など胃腸症状の強さと、主観的な睡眠の質の悪さとの間に、強い関連がありました(20)。しかし、睡眠ポリグラフ(註10)を用いた検査では、過敏性腸症候群の患者と健康な人との間で、差は認められていません(21)

考えられるのは、過敏性腸症候群の人は、客観的に測った睡眠構造(深いノンレム睡眠、レム睡眠の割合など)に異常はないのですが、正常な腸からの刺激に対して、健康な人に比べてオーバーに脳と体が反応している可能性です。それで眠りの質が悪くなったように感じるのかもしれません。

過敏性腸症候群が睡眠の質を悪くしていることを紹介してきましたが、逆に睡眠不足が過敏性腸症候群の症状の要因にもなりえます。