ちなみに、1987年には紐を引っ張ると加熱するタイプの弁当の発売も始めている。関東の人にとっては仙台の牛たん弁当でおなじみだが、実はこれを開発してはじめて採用したのは淡路屋だ。老舗の駅弁屋というと、昔ながらの伝統を守る保守的なイメージがあるが、チャレンジ精神の塊だったのである。

「これはオーナーの寺本家の気質なんでしょうかね。だから『ひっぱりだこ飯』も生まれたんだと思います。いまでもいろいろチャレンジは続いていますよ。

『ひっぱりだこ飯』のコラボもそのひとつ。最初は販売1000万個を突破したときに、金色の『ひっぱりだこ飯』を売ったのがきっかけでした。

これがめちゃくちゃ売れて、そのあとに机の上でゴジラのフィギュアとたこつぼが並んでいるのを見たときに、ゴジラ対ひっぱりだこ飯のアイデアが浮かびました。すぐに東宝さんに相談させていただいて、実現することができました」(柳本さん)

ゴジラ対ひっぱりだこ飯。たこつぼはゴジラの熱線で焼かれて真っ黒で、中に入っているタコも焼きダコを使う。ただ、これでは防戦一方なので、具材のひとつにゴジラの卵に見立てたウズラの卵の燻製を入れた。「焼きすぎたらお前の卵も焼けるぞ、という精一杯の抵抗です(笑)」(柳本さん)

キティに県警、自衛隊…相次ぐコラボと“JR発足時の激変”

いまではハローキティから兵庫県警、自衛隊など硬軟織り交ぜてさまざまなところとコラボした「ひっぱりだこ飯」を世に送り出している。容器のたこつぼもまさに色とりどり。期間限定の商品も多く、“たこつぼコレクター”もいるのだとか。

「もうたこつぼ依存症ですわ(笑)。もちろん『ひっぱりだこ飯』以外でも、JR貨物コンテナ弁当を出したり、いろいろなチャレンジをやっています。

うちの会社では、誰がやってもいいんです。みんなが新しい弁当を考えて、それにみんなでやいやい言うて商品化する。売れないものもありますよ。でも、しゃあないやん(笑)。失敗を活かして、またチャレンジすればいいだけのことです」(柳本さん)

そんなイケイケにも思える淡路屋さん。だが、もちろんこれまですべてが順風満帆だったわけではない。

たとえば、国鉄が分割民営化されてJRが発足した時代。それまで、鉄道構内での営業活動は許可を得た日本鉄道構内営業中央会に加盟している業者に限定されていた。しかし、国鉄民営化以降はコンビニや町場の業者が進出してきた。いまや、ターミナル駅の構内にはチェーン店から地域の名店まで、あらゆる店が揃っている。