地方経済にとって重い負担になる

この「炭素税1万円」が実際に導入されれば、人々の生活はどうなるでしょうか?

北海道などの寒冷地では、年間のCO2排出量は一世帯あたり5トンを超えます。つまり、炭素税率1万円ならば、年間5万円の負担が発生するわけです。過疎化、高齢化が進む地方経済にとって、これは重い負担になります。

産業はどうなるでしょうか?

例えば大分県のように製造業に依存している県では、県内総生産100万円あたりのCO2排出量は6.7トンにのぼります。炭素税率1万円ならば、納税額は年間6.7万円。県内総生産のうちこれだけが失われると、企業の利益など軒並み吹っ飛んでしまうことでしょう。

「再エネ投資で経済成長」はナンセンス

また、「炭素税収を原資に、大々的に省エネ投資への補助をすれば経済は成長する」という議論もナンセンスです。

確かに、数値モデル上では、そのようなことも起こりえます。「愚かな企業や市民がエネルギーを無駄遣いしている」ところを「全知全能のモデル研究者と政策決定者」が儲かる省エネ投資に導く、という前提になっているからです。

しかし、「政府が税金を取って、民間に代わってどの事業に投資するか意思決定することによって経済成長が実現する」という考え方は、そもそも経済学の常識に反します。

特に省エネ投資のように、大規模な公共インフラとは異なり、無数の企業や市民が自分の利害に直結する意思決定をする場合は、なおさらです。

政府の補助があったので購入したものの、受注が不調で工場が稼働しない(で使われていない)、という“ピカピカの無駄な設備”は日本のいたるところにあります。

産業用ロボットアームを備えた工場の生産ライン
写真=iStock.com/SweetBunFactory
“ピカピカの無駄な設備”は日本のいたるところにある(※写真はイメージです)

政府の補助をもらってゼロエミッションの大きな住宅を建てたものの、予想外に家族構成が変わってしまい、一人で住むことになってしまった。そこでローンの支払いに苦労するといったこともあるかもしれません。