「むしろ不健康で良かった」

次に、僕は、「会社の幹部になるには、健康が大事ですか? 丈夫じゃないといけませんか」と質問した。すると松下さんは、「いや、健康も関係ない。私は結核患者だ。治ったわけじゃなくて、進行が止まっただけの半病人だ。それがむしろ良かった」という。

どういうことかと言うと、健康な人間は陣頭指揮をとりたがって、つい、俺について来いというワンマン経営になりがちだと言うんです。往々にして、後ろを振り返ると誰もついてこなくて自滅するパターンが多いんだ、と。しかし、自分は半病人だったから、後方経営、いちばん後ろからトコトコとついて行くと。これはシンドイよね。

だって後ろから経営者がついてきたら、やっていることが丸見えなんだから。でも、これが経営の基本だと松下さんは言う。後方経営、つまり全員参加です。皆、わからないながら前を走っていくわけで、ボトムアップの経営でしょう。

若い人間でも思い切ったことができるから、互いに活性化する。だから、健康である必要はないと言うわけ。

握手を交わすビジネスマン
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暗い人間に人はついていかない

頭の良し悪しも、健康も関係ない、じゃ誠実さで評価するのですか? と僕は重ねて質問した。すると、誠実さも関係ない、と言い切るんです、松下さんは。

というのは、どんな誠実そうに見える人間も、窓際にポーンと左遷されたとたんに誠実じゃなくなると言うんです。サボタージュしたり、やる気を失うでしょう。会社に対するグチがはじまる。逆に、陽の当たる、いいポジションにつけば誰だって誠実になれるんだと。だからむしろ社員が誠実でなくなったとすれば、それは経営者の責任であると言うわけです。

「じゃあ、どこを見て、その人間を抜擢するのか?」と聞いたら、松下さんは、しばらく考えこんでいた。そして、こう言った。

「強いて言えば……、明るさかな」

その人が来ると、会議の空気が冷え冷えする。そういう人間が実際にいるけど、そいつはダメだ、と松下さんは断言した。明るさのない暗い人間が幹部になると、皆、ヤル気を失う、熱気がなくなる。そういうことが、まずあるでしょうね。

暗い人間って、いろんなもののマイナス点ばかり見て、とかく批判的になる。物事というのは、表と裏が必ずあって、いろんな見方ができる。ところが暗い人間というのは、物事のマイナス面、欠陥、アラばかり見てしまう。人は、その欠陥ばかり指摘されれば、誰だってヤル気をなくしますよ。