共依存の始まり

1人暮らしを始めた吉野さんは、後ろめたさを感じながらも、やっと本当の自由を手に入れた気がした。

しかし何日か経つと、「今夜も妹は泣き叫んでいるのだろうか」「両親は大丈夫なのだろうか」と思えてきて、罪悪感に押しつぶされそうになる。何も考えたくなくて、吉野さんはアルコールに逃げた。毎週末外に飲みに出かけ、楽しく飲んだ。

22歳になった頃、後に夫となる男性に出会った。彼は吉野さんより4歳年上で、トラックの運転手をしていた。裏表がなく、ストレートにものを言う人で、吉野さんにとって、これまで会ったことのないタイプの男性だった。

2人は意気投合し、出会ったその日に彼は吉野さんのアパートに転がり込み、そのまま同棲を開始。

「人の顔色をうかがうことに疲れていた私は、彼の裏表のなさに惹かれました。そして、『何も取り柄のない私のような人間は、どうしたら彼を引き止めておけるのだろう?』と、そればかりを考えるようになりました」

吉野さんは、異常なまでに彼に尽くすようになっていった。自分もフルタイムで働いて、残業もあったが、家事はすべて吉野さんが担当。携帯電話が放り出してあれば充電しておき、翌日着る服を枕元にセットする。彼がキョロキョロすれば、ティッシュや灰皿を差し出し、朝は必ず起こして、忘れ物がないか確認。それでも忘れ物があったときは、自分の出勤時間を無視して届けた。家での晩酌のペースは彼に合わせ、1人で飲みに出かけるのは我慢。多少具合が悪い日も、いつも笑顔でいるように努めた。

灰皿でたばこの吸い殻の火を消している手元
写真=iStock.com/Rattankun Thongbun
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「いつのまにか、私の世界の中心は、アルコールから彼になっていました。共依存の始まりでした……」

日本医師会によると、狭義の「共依存」とは、アルコール依存症の夫とその妻との関係を指していたが、近年はアルコール依存症だけでなく、機能不全家族にみられる関係にまで広げられている。「共依存関係」は、一方が他方を支配し、他方は“支配の魅力”を提供することで一方を支配するという、「支配(コントロール)をめぐる闘争」が常に展開される関係だ。この頃、彼が吉野さんを支配し、吉野さんは彼に、“支配の魅力”を提供することで“彼を支配する”という関係が構築されていた。