知られざる「感覚鈍麻」のメカニズムとは

では、この「感覚鈍麻」とは、いったいどのようなメカニズムで起こる症状/特性なのだろうか?

加藤さんが主宰する「感覚過敏研究所」で医療アドバイザーを務める児童精神科医の黒川駿哉氏は、昨今、「服のタグが気になる」「蛍光灯の光が眩しい」「どうしても無理な食べ物のニオイや食感がある」……などの症状で関心を集めつつある「感覚過敏」とあわせて、以下のように説明する。

「脳神経が刺激に反応する(刺激を認識する)最小の刺激量を『閾値いきち』といいます。閾値には個人差があり、たとえば感覚過敏の人はこの閾値が小さい。だから、わずかな刺激でも反応するのだと考えられています。一方、感覚鈍麻の人の閾値は平均より大きく、(感覚として)感じ取れる量まで刺激の量がなかなか到達せず、つまり鈍感であると考えられます」

平均的な人よりも「閾値」が大きい

「ただし、感覚過敏や鈍麻は、閾値だけによって決まるわけではありません。音の高さの違いの細やかさや、色の認識の細かさなど、目や耳、皮膚など『感覚器』の刺激の幅への“感度”の特性であるケースや、刺激を統合して処理する脳の特性である場合など、さまざまな理由が考えられます。あるいは、刺激が過敏すぎて刺激を処理しきれず、感覚鈍麻になるケースも。刺激に対応できず無反応になった結果、まるで刺激を感じていない=感覚鈍麻のように見えるのです」

つまり、冒頭のエピソードで紹介したAさんは、平均的な人よりも「閾値」が大きいため感覚を感じづらく、この猛暑でも“暑さを感じない”というワケだ。

この“平均値”から離れた感覚の特性を「感覚鈍麻」、あるいは「感覚過敏」といい、くわしい原因はいまだ研究中であるものの、刺激に対する脳機能の働きや疾患、個人的な経験など、さまざまな原因で起きると考えられている。