アメリカ発の「MeToo運動」は、なぜ大きなうねりとなったのか。ハーバード大学医学部の内田舞准教授は「アメリカには他者の同意を最大限に尊重する文化がある。たとえば私の子どもは2歳児のクラスから『同意』について教えられていた。だからこそ、MeToo運動も現実に根を下ろすことになったのではないか」という――。

※本稿は、内田舞『ソーシャルジャスティス』(文藝春秋)の第3章「子どもに学ぶ同意とアドボカシー」の一部を再編集したものです。

#MeTooと書かれたボードを持つ人
写真=iStock.com/AndreyPopov
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MeToo運動はTwitterで広がった

ネット空間での「炎上」はもはや日常茶飯事で、そこでは確かな応答を一つひとつ積み上げて有意義な議論を組み立てることは難しいかもしれません。

もちろんエンパシーを心がけたり、大きな波に巻き込まれないような勘を育てることが「炎上」に対する距離の取り方を教えてくれるところがあるとはいえ、私たちは実際に対面して話していたらとらないコミュニケーションを、顔の見えない相手にはとってしまいがちです。あるいは時には、ネット上のコミュニケーションがあふれ出て、現実の対人関係に影響を及ぼしてしまうようなこともあるでしょう。

でもその一方で、近年のTwitter上でのMeToo運動とその広がりを振り返るとわかるように、一人の力では立ち向かうことのできない権力に対して、声が連なってうねりとなり、それ以前は動かせなかった大きな山を動かす力を持つという前向きな性格を持つものでもあると思います。

MeToo運動が「同意教育」の端緒になった

もちろん、事後的な検証や、ネット上の告発だけで終わらせずに丁寧なコミュニケーションをとることがその後も必要なことは言うまでもありません。

アメリカでは実際に、このネット発のMeToo運動が現実に根を下ろし、他者とのコミュニケーションのあり方を考え直す「同意教育」の端緒となりました。これまでの沈黙を破って変化を起こし、コミュニケーションのあり方を見つめ直す。まさにネット上では終わらない議論を提起したのです。

この章では、そんな現在進行形のアメリカの変化を紹介しながら、差別と分断を乗り越えるためのヒントを考えてみたいと思います。

さて、日本では耳なじみのない言葉かもしれませんが、「同意」と聞いて皆さんはどのようなものを思い浮かべるでしょうか?

医師である私はまず医療行為のインフォームドコンセントを思い浮かべます。患者さんにとって必要な医療行為に関してリスクとベネフィット、医師としてどんな治療や投薬を薦めるかといった今後の方針を説明し、患者さんの希望を聞きながら一緒に次のステップを決定していきます。その際、患者さんが説明を受けた上で、「この医療行為をすることに同意します」とサインするのがインフォームドコンセントです。